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「哀れなるものたち」2回目 [映画]



第96回アカデミー賞[レジスタードトレードマーク]、作品賞・主演女優賞含む、圧巻の11ノミネート!
第81回ゴールデングローブ賞、作品賞(ミュージカル/コメディ部門)・主演女優賞(エマ・ストーン)受賞!
第80回ヴェネチア国際映画祭、金獅子賞受賞。
【ストーリー】
自ら命を絶った不幸な若き女性ベラ(エマ・ストーン)が、天才外科医ゴッドウィン・バクスター(ウィレム・デフォー)の手によって奇跡的に蘇生することから始まる。蘇ったベラは“世界を自分の目で見たい”という強い好奇心に導かれ、放蕩者の弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)の誘いに乗り、壮大な大陸横断の冒険の旅へ出ていく。やがて貪欲に世界を吸収していくベラは、平等と自由を知り、時代の偏見から解き放たれていくのだった。

最初に観た後も、
ものすごく幸せな気分で席を立てて、
ものすごく前向きな気持ちで帰宅した。
その後ラジオやYouTube で映画評を聴いて、
「絶対にもう一度観たい!」という思いが募った。

好きな俳優が出ているし、
ヨルゴス・ランティモスの映画や好きだけど、
それを遙かに超えた何かが私を惹きつける。
それがエマ・ストーン力なのか、
ウィレム・デフォー力なのか、
見極めたくて、
そしてもっと幸せを感じたくて。

ものすごく根源的なことだけど、
ベラは自分を否定しない。
母親の死んだ身体に胎児の脳を移植されて、
他の人間とは違う存在なのに、
その存在に疑問を持つこともなければ、
自分は自分として生きている。
それはおそらく胎児の脳であり、
無垢の存在だからこそ、
全てのものと全ての出来事を受け入れ、
素直に感じ取るように、
自分の存在も疑うことがないのだ。
なんの先入観も偏見もない状態だから、
自分が異形の存在だとか、
ゴッドの外見が異形だとか、
セックスで幸せになることが恥ずかしいとか、
そんなものは持ち合わせていない。
その時自分が欲しいものを与えてくれるから、
ダンカンについて旅に出る。
だけど自分は婚約しているから結婚なんかしない。
沢山のものを与えてくれたはずのダンカンが、
実は腰砕けのふにゃふにゃなバカヤロウだと知れば、
遠慮なく彼を突き放す。
外の世界を観て経験して、
いろいろな人と話をして、
本を読んで学んだことは、
「人間が一番のも白いから医者になる」。

こんなにも純粋で美しい生き方があるだろうか。
あの庭に生きているものの殆どは、
「ドクターモローの島」といえる。
それは確かに見方によっては「哀れなるものたち」だ。
だけど彼らは自分を疑わない。
その生き方が本能でもあり自然でもある。
あの庭園の光景が美しく見えるのは、
そこに無理がないからなのだと思ったら、
今日もまた途轍もなく美しいものを観て、
とても幸せな気分になれた。

18禁だから作品賞は難しいかもしれないが、
少なくとも衣装や美術はアカデミー賞を受賞してほしい。
そしてこの映画はベラのフェミニズムだけではなく、
彼女の無垢な魂が持つ、
物事を偏見なく公平に見つめる力、
人種も性別もなく、
もちろんヘイトもない世界、
それこそが人間としてどれだけ素晴らしいか、
そのことを語って要るのだと思う。

こんな日本でベラのような精神を持つことは、
非常に難しいことなのかもしれない。
だけどそれは不可能ではない。


なんと、
「哀れなるものたち」とは、
現世に生きる汚れた心を持つ我々のことだった!


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「ゴースト・ワールド」 [映画]




ゴーストワールド [Blu-ray]

ゴーストワールド [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: マクザム
  • 発売日: 2023/07/28
  • メディア: Blu-ray


2001年、「ダメに生きる」というキャッチコピーが反響を呼び、当時は新しい“低体温系”青春映画として大ヒットを記録した本作は、70年代のカルト・コミック「フリッツ・ザ・キャット」原作者ロバート・クラムを描いた『クラム』(1994)などドキュメンタリーに定評のあるテリー・ツワイゴフによる初の長編フィクション。原作は、アメリカで「ティーンエイジャーのバイブル」として高い人気を誇ったダニエル・クロウズの同名グラフィック・ノベル。ロサンゼルス郊外で撮影された本作は、どこまでも続くショッピングモールやファーストフード・チェーンの進出によって、次第に個性を失いつつある1990年代のアメリカの名もなき町が舞台。世界に馴染めず、いつも周囲をばかにして過ごしているシニカルな2人のティーンエイジャーが大人になることに直面し、自分の居場所を見つけようとする倦怠感に満ちた数ヶ月を描く。

スカヨハとスティーヴ・ブシェミ。
この二人だけで見ちゃうでしょ。
もうめちゃくちゃダメダメなメガネ女子を演じるソーラ・バーチ、
彼女がもうとにかく素晴らしい。
かっこ悪いんだけどこだわりはあるし、
彼女らしいファッションとか持ち物がもう最高。
一方のスカヨハは現実がわかっていて、
超リアルな生き方をしている。
最初こそくだらないことを一緒にやって、
「サイコー」とか言っていたのに、
現実が迫ってくるからリアルに生きる。
その対比とともに、
いけてない男スティーヴ・ブシェミが、
実はけっこうオタクだけど格好いい。
そこに心が惹かれていくのも納得できるのは、
単に私の趣味なんだけど。
そして来ないバスを待つ爺さん。

そこからの結末からのこのタイトル。

めっちゃ格好いいのだ。
登場する音楽も全部格好いいのだ。
ダサかっこいいの極致。
本当は「ポトフ」が本命だったのに、
こっちにめちゃくちゃ惚れ込んで帰ってきてしまった。

サントラ欲しいっす。
輸入盤しかないから密林でMP3で買うか。


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「ポトフ 美食家と料理人」 [映画]



<STORY>
〈食〉を追求し芸術にまで高めた美食家ドダンと、彼が閃いたメニューを完璧に再現する料理人ウージェニー。二人が生み出した極上の料理は人々を驚かせ、類まれなる才能への熱狂はヨーロッパ各国にまで広がっていた。ある時、ユーラシア皇太子から晩餐会に招待されたドダンは、豪華なだけで論理もテーマもない大量の料理にうんざりする。〈食〉の真髄を示すべく、最もシンプルな料理〈ポトフ〉で皇太子をもてなすとウージェニーに打ち明けるドダン。だが、そんな中、ウージェニーが倒れてしまう。ドダンは人生初の挑戦として、すべて自分の手で作る渾身の料理で、愛するウージェニーを元気づけようと決意するのだが ── 。

美味しいものが大好きで、
料理をすることが大好きな人なら、
冒頭からの調理シーンだけで大満足なはず。
料理の工程を細かく見せてくれるので、
どんな野菜を使っていて、
どんな肉や魚をつかっているのかよくわかる。
ポロネギのどの部分をどの料理に使っているかまで丸見え。
大きなヒラメ(舌平目と訳されていたけれどフランスではあれが舌平目?)を、
レモンと香草と牛乳で煮て、
手で丁寧に皮をはがす作業まで念入りに見せてくれる。
そりゃもう美食の限りを尽くしているので、
とても全てはマネできないが、
パンにつめたシチューなんて、
ちょっと工夫すれば自分でもできそうだった。

なにせ食いしん坊なもので、
そこから思いきり心を持って行かれて、
登場する美しい料理に魅了された。

だからわかる。
最後にウージェニーがドダンに尋ね、
ドダンが答える言葉に満足そうに微笑む意味が。
彼らを結びつけていたものが、
ただの男と女としての愛情だけではない、
自らが考えた料理を、
確実に完璧に作り上げる相棒。
そこには愛情を遙かに超えたもので結ばれた愛があった。

最近は英語で演技することも多いジュリエット・ビノシュだが、
やはりフランス語で演じているとき、
このときの演技と表現力は格別だ。
幸せそうに料理をしているときの彼女の表情が、
無邪気な幼女のようでとても愛らしい。
それがとても眩しくて、
そりゃドダンじゃなくても惚れると思うw。

自らの畑で育てた野菜を使い、
信用できる人間から魚や肉を買い、
自らがもっとも美味しいと思う方法で調理する。
何度贅沢なことか。
料理も愛情も得られること自体贅沢すぎる。
両方望んでは欲張りというものだ。



それにしても、
サラダ菜のようなレタスのようなあの葉っぱ。
丸ごと茹でて絞って使うとは、
予想もしていなかっただけにビックリした。 

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第14回 東京03単独公演「後手中の後手」 [DVD&Blu-ray]


第14回東京03単独公演「後手中の後手」

第14回東京03単独公演「後手中の後手」

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2013/05/15
  • メディア: Prime Video




第14回 東京03単独公演「後手中の後手」 [DVD]

第14回 東京03単独公演「後手中の後手」 [DVD]

  • 出版社/メーカー: アニプレックス
  • 発売日: 2013/03/27
  • メディア: DVD


祝!! 結成10周年  日本一のコント トリオ・東京03!2012年6月スタート、全国18ヶ所・全35公演、約15,000人を動員した単独ライブツアー「後手中の後手」最終東京公演を収録!

この辺りから固まってきた。
ちょっと子どもっぽい下ネタとか、
「ちょっと余分かな?」と思うような、
オチの部分とかも削られて、
東京03独特のシットコムが出来上がってきた。
今から振り返ると、
「ああ、これこれ」と思えるネタが増える。

「東京の両親」とか大好き。
予想を裏切る展開が酷すぎて、
もう腹が痛くなるほど笑える。

と言うか、
今のコンプライアンスとかに、
この頃やっと沿ってくるのかな。
逆に言えば、
この頃から世間が喧しい様になったと言うことか。 
 
不自由な世の中だ。

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「パラダイスの夕暮れ」 [Amazon Prime Video]


パラダイスの夕暮れ (字幕版)

パラダイスの夕暮れ (字幕版)

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2023/11/01
  • メディア: Prime Video



「真夜中の虹」「マッチ工場の少女」と共に“労働者三部作"といわれ、世界中から高い評価を受けたアキ・カウリスマキ監督初期の傑作。ゴミ収集車の運転手のニカンデルは、スーパーのレジ係のイロナに恋をする。しかしやっとのことで彼女をデートに誘うも、大失敗をしてしまう。ところが、仕事をクビになったイロナが、ニカンデルのもとに転がり込むことになり…。

アキ・カウリスマキ監督の作品を見ていると、
いつも思うことは、
「この演技で魅せる役者はすごいなぁ」ということ。
そもそも毎日の生活で、
ドラマや映画みたいなやりとりなんてしない。
「すげぇなぁ」って思うのは、
大抵現実にはあり得ないことだから。
人生の再現ドラマになるのも稀だからだし、
話題になるのも珍しいとか特別だから。
アキ・カウリスマキ監督の映画は、
そのまったく逆を行くテンション。
殆どの会話は余り感情もなくて、
どちらかと言えば棒読み。
でも原語が違うからなのだろうけど、
日本語の棒読みともまた違う。
言葉の意味を含んだ言い方は感じられる。
そして身体の演技も最小限だけど、
そんなに喜怒哀楽を身体中で表現する普通の人はいない。

だから本当に日常を切り取った様な、
そんな風情にホッとしながら観ることが出来る。
ある意味黒澤明やタランティーノみたいな監督との対極。
さすが小津安二郎に傾倒していただけある。

で、これもまた一貫してその雰囲気で、
おなじみの俳優たち。
理不尽な世の中、
労働者に厳しい世間、
何をしてもなんだかかみ合わない二人、
だけどつかず離れず。
その二人が最後に選ぶ道には度肝を抜かれるが、
これもまたフィンランドならではだし、
それを見送る友人の朴訥とした感じと、
ちょっと羨ましげに見つめる遠い瞳。
そして何事もなかったように去って行く。

大きな感動とか、
拳を振り上げるような興奮はないけれど、
確実に「うんうん」と頷いて、
同意してしまうような世界。
私は本作では、
冒頭から「独立して清掃会社を始めるから一緒にやろう」と言って、
一緒に働き始めたらすぐに休止してしまう男。 
なぜか彼にものすごくかんじょういにゅうしてしまった。

希望が持てればどこでもパラダイス。

ホント、
恋愛も仕事も作られすぎた映画多すぎる。

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「かぞくのくに」 [WOWOW]




かぞくのくに ブルーレイ [Blu-ray]

かぞくのくに ブルーレイ [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2013/03/22
  • メディア: Blu-ray


■ストーリー
兄が帰って来た。父が楽園と信じたあの国から。病気治療のために3ヶ月間だけ許された帰国には見知らぬ男が監視役として同行していた。微妙な空気に包まれる25年ぶりの家族団欒。奇跡的な再会を喜ぶかつての級友たち。一方、治療のための検査結果は芳しくなく、3ヶ月では責任を持って治療できないと告げられてしまう。必死で解決策を探す家族だったが、そんな矢先、本国から「明日 帰国するように」との電話が来るのであった…

最初にこの映画を観たとき、
まだ何も韓国のことも北朝鮮のことも知らなかったに等しい。
帰国事業のことは知っていたけれど、
「地上の楽園」と言われた国の現在の様子と、
そのうたい文句を信じた人たちの存在が信じられなかった。 
そしてなぜこの家族が北朝鮮を選んだのか、
なぜ息子だけが北朝鮮にいるのか、
背景を何も知らなかった。
ただ友人に勧められて見て、
「なんて理不尽な話だろう」と思いながら、
「楽だぞ、思考停止。」というセリフが異様に記憶に残った。
今回WOWOWでヤン・ヨンヒ監督特集をやっていて、
たまたまリアルタイムで見始めたらもうやめられなかった。


兄 かぞくのくに (小学館文庫)

兄 かぞくのくに (小学館文庫)

  • 作者: ヤンヨンヒ
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2013/09/06
  • メディア: Kindle版



その後同じ友人に勧められて、
この本を読んで事情を全部理解した。
そしてやるせない思いが私を包んだ。

映画と実話は別物。
少しずつ設定や状況を変更している。
長い長い在日の物語を、
端的に「あのくに」のことを伝えられるように、
兄の現状が伝えられる様に、
父と母が何を思っているのかわかりやすいように、
見事に脚色されていると思った。
前回見た時よりもはるかに理解できた代わりに、
前回見た時よりもはるかに理不尽な思いに悶々とした。

この物語の背景を知れば、
おそらく「陰鬱」「退屈」なんて言葉は出てこない。
なぜこの兄はあのくににいるのか。
なぜこの兄はあの時ああいう言葉を父に言ったのか。 
なぜこの兄は妹にあんなことを言ったのか。
たった16歳であのくにに渡った兄。
病気すら満足に治せないくにから来て、
理不尽な命令で帰国しなければならない兄。
誰もが腹を立てながら、
誰もが悲しいと思いながら、
誰もが悔しいと思いながら、
それを表に出すことはできない。
ただ母はありったけの小銭を抱えて走り出し、
精いっぱいの誠意をあのくにに示して見せる。

配役に文句がある人もいるらしいが、
この映画を作ること自体がかなりのハードル。
むしろこの映画に出演してくれた俳優たち、
彼らはヤン・ヨンヒ監督の心を理解してくれていたに違いない。
「新聞記者」に出演する日本人女優が居なかったように、
この映画でも困難はあったはずだ。

理不尽だし悔しいし悶々とする。
でも私はこの映画がとても好きだ。
素直に心を表現する妹。
演じる安藤サクラの演技も含めて、
彼女の思いに共感するし、
彼女の行動にも思いやりにも共感する。
本当に理不尽だ。
親も兄もあのくにも。
でもそれが現実だ。 
そうしてあのくには国民を集めたのだ。


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「GO! GO! L.A.」 [DVD&Blu-ray]


GO! GO! L.A. 《スペシャル・プライス》 Blu-ray

GO! GO! L.A. 《スペシャル・プライス》 Blu-ray

  • 出版社/メーカー: IVC
  • 発売日: 2023/09/29
  • メディア: Blu-ray


■物語
イギリスの片田舎で葬儀屋を営む22歳の青年リチャードは、家業を継ぎながらも脚本家を目指していた。
そんな中、アメリカ人のウェイトレス、バーバラと出会う。
女優を夢見る彼女に、リチャードは恋に落ちる。
やがて彼女を追いかけ、ロサンゼルスへとやってきたが…。

アキ・カウリスマキ監督のお兄さん、
ミカ・カウリスマキ監督作品。

台詞棒読みのような弟と違って、
なかなかにエモーショナルな演出をなさる。
ソレニシテのこの兄弟、
とことんロマンチストなんだなぁと思った。
葬儀屋のあんちゃんが女優志望のお姉ちゃんとできて、
彼女を追いかけてとうとうロスまで行ってしまう。
そして盲目的に彼女を追っかけ回し、
とうとう結婚までしてしまうのがすごい。
「愛しのタチアナ」を観た後だったから、
距離も場所もものともしない情熱に恐れ入った。

そう簡単に話は進まないし、
曲者ビンセント・ギャロが予想と違って良い奴で、
これまたロマンチストなんだなぁ。
偶然とは言え、
出会いの妙がこの映画の魅力。

ギャハハと笑うコメディではないけれど、
人の優しさとか温かみがある映画。
じわーっとくる。

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「愛しのタチアナ」 [Amazon Prime Video]


愛しのタチアナ (字幕版)

愛しのタチアナ (字幕版)

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2023/11/01
  • メディア: Prime Video




愛しのタチアナ/浮き雲 【HDニューマスター版】(DVD)

愛しのタチアナ/浮き雲 【HDニューマスター版】(DVD)

  • 出版社/メーカー: キングレコード
  • 発売日: 2014/03/26
  • メディア: DVD


フィンランドのアキ・カウリスマキ監督が、二人の中年男と二人の外国人女性の奇妙な旅を描くロードムービー。60年代のフィンランド。コーヒー中毒の仕立て屋ヴァルトは、いい年をしてロックンローラー気取りの修理工レイノと一緒に、車であてのない旅に出る。途中立ち寄ったバーでエストニア人のクラウディアとロシア人のタチアナに出会い、ヴァルトたちは二人を港まで送ることにする。

遊びはあるのに無駄はない。
たった1時間2分の映画の中に、
母親とふたり暮らしで苛ついて息詰まった男と、
その男の車の修理をした格好をつけたい男。
この二人が不意にその車で旅立ち、
道すがら乗せたエストニアとロシアに帰る二人の女性。
4人のロードムービーは、
煮え切らない二人の男と、
余計なことは言わないが優しく包容力にあふれた女性と、
静かに静かに感情を動かしていく。

主人公が使っているミシンに、
「ハスクバーナ」と書いてあって、
「あれ?」なんで知っているんだろうと。
で、思い出した。
昔営業でバイク屋周りをしていたときに、
ハスクバーナのオートバイを見ていたからだ。
で、ちょっと調べてみたら、
BMWが買った挙げ句に、
オースゴリアの企業に売却されていた。

BMW、ハスクバーナをオーストリア企業に売却へ

ローバーの時と同じように、
自前のブランドが持たない技術とネームバリューを買って、
要らなくなったらサッサと売る。
私はBMWのこのやり方が気に入らないので、
絶対にBMWを許さない。
買えないからどうでも良いけれど、
バイエルン発動機は大キライである。

全く映画と関係ないことだが、
1995年の映画を見て、
そんなことを思い出すこと自体、
それもまた映画の楽しみだなぁと思う。

カウリスマキの作品は哀しい労働者が多いが、
この映画では決して哀しいとは思わない。
中年以降老いらくの恋、
それにかけようとする気持ちも、
家に帰って母親と日常を繰り返す気持ちも、
どちらも平穏のうちに終わっていると思う。
人生って実はこんなモノだし、
逆にエストニアに残ると決心した男もまた、
日常の中の決心でありながら、
人生を変える決心であり、
それはある意味人生の平穏を求めているのかもしれない。

たった1時間2分。
天才だなーと思う。

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「ストップ・メイキング・センス4Kレストア」 [映画]



1974年~1991年にかけて活動したアメリカ・ニューヨークのロックバンド、トーキング・ヘッズの1983年12月の「スピーキング・イン・タンズ」ツアーの模様を収録したコンサート・ドキュメンタリー映画。のちに『羊たちの沈黙』でアカデミー監督賞を受賞することとなるジョナサン・デミ監督が、トーキング・ヘッズの驚異のライヴを観て衝撃を受け、コンサート・フィルムの撮影を熱望して実現した。スタンリー・キューブリックの『博士の異常な愛情』も手掛けたパブロ・フェロによる考え抜かれたオープニング、一人ラジカセを持って登場、「サイコ・キラー」を演奏するデヴィッド・バーン、そして1曲ごとにバンドメンバーが加わっていき、エネルギーと臨場感に溢れたコンサートが展開していく...。映画評論家のレナード・マルティンは「史上最高のロック映画のひとつだ」、辛口批評で有名なポーリーン・ケイルは「完璧に限りなく近い」と語り、デヴィッド・バーンによる計算され尽くしたライヴのコンセプトと、ジョナサン・デミによる美し過ぎる映像表現により、以後あらゆる媒体、あらゆる年代、時代問わず、「史上最高のコンサート映画」として映画史上に燦然と輝く金字塔的作品となった。日本でも80年代のミニシアター文化の黎明期に驚異的なヒットを記録している

最初から2日続けて観ることがわかっていたので、
2回目は特に記事にするつもりはなかったのだが。

1985年にこの「サイコ・キラー」を聴いたときから、
もうすでにこのときの思いは決まっていたのだ。
昨日は一つも見逃すまいと注視しながら、
音楽を楽しんでいたのだが、
今日はもうずっとエア熱唱で1時間半。
そして気がついた。

「この映画こそが私のエバー・グリーンなのだ。」

身体の奥底と、
脳の決して忘れられない領域に染みついた、
これ以上のものはない体験を、
1985年にしたことですり込まれたのだ。

そして今、
「アメリカン・ユートピア」という完成されたライブ・パフォーマンスで、
デヴィッド・バーンはまた違う頂点に立った。
40年以上前の曲の歌詞も、
今の曲の歌詞も、
デヴィッド・バーンの言いたいことは一貫している。
内容も古びていないし、
時代を超えた価値観と世界の矛盾を歌う。

「哀れなるものたち」を観て、
「ストップ・メイキング・センス」を観たら、
もう今年はこれでいいかな、という気になるw。
そのくらいこの2本は私には特別な映画だ。

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「真夜中の虹」 [Amazon Prime Video]


真夜中の虹 (字幕版)

真夜中の虹 (字幕版)

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2023/11/01
  • メディア: Prime Video




真夜中の虹/浮き雲 [DVD]

真夜中の虹/浮き雲 [DVD]

  • 出版社/メーカー: アップリンク
  • 発売日: 2002/05/24
  • メディア: DVD


南を目指す男の波乱万丈な旅をアキ・カウリスマキ監督が描いた、ハードボイルド・ロマン。炭鉱の閉山で失業したカスリネン。自殺した父のキャデラックに乗り、はるか南を目指して旅に出る。ところが途中、強盗に全財産を奪われ途方に暮れることに。そんな中出会ったイルメリという女性とその息子リキと交流するうち、奇妙な愛情を抱くようになる。

一種のロードムー美^でありがながら、
なかなか移動しないw。
ちょっと動いては停滞し、
また動いては停滞し、
なぜか情を交わすようになる女性と出会い、
その息子ともにも情が移って、
だけど人生は美味く転がらなくて。

そこがカウリスマキの映画なのだけど、
それが何とも酷い話だが、
陰惨さとは無縁に、
相も変わらず延々と続きながら、
辛抱ができずにまた転がり始め、
そして最後は、
「虹の向こうに」なのだ。

人が希望を捨てなければ、
いつかは虹の向こうに行かれる。
「世の中悪いことばかりじゃないよ」
1時間ちょっとのこの映画で、
絶望とどん底を何度も観ながら、
最後には虹が見えるようなマジックアワー。
心が温かくなって微笑んで終わる。

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