「かぞくのくに」 [WOWOW]
■ストーリー
兄が帰って来た。父が楽園と信じたあの国から。病気治療のために3ヶ月間だけ許された帰国には見知らぬ男が監視役として同行していた。微妙な空気に包まれる25年ぶりの家族団欒。奇跡的な再会を喜ぶかつての級友たち。一方、治療のための検査結果は芳しくなく、3ヶ月では責任を持って治療できないと告げられてしまう。必死で解決策を探す家族だったが、そんな矢先、本国から「明日 帰国するように」との電話が来るのであった…
最初にこの映画を観たとき、
まだ何も韓国のことも北朝鮮のことも知らなかったに等しい。
帰国事業のことは知っていたけれど、
「地上の楽園」と言われた国の現在の様子と、
そのうたい文句を信じた人たちの存在が信じられなかった。
そしてなぜこの家族が北朝鮮を選んだのか、
なぜ息子だけが北朝鮮にいるのか、
背景を何も知らなかった。
ただ友人に勧められて見て、
「なんて理不尽な話だろう」と思いながら、
「楽だぞ、思考停止。」というセリフが異様に記憶に残った。
今回WOWOWでヤン・ヨンヒ監督特集をやっていて、
たまたまリアルタイムで見始めたらもうやめられなかった。
その後同じ友人に勧められて、
この本を読んで事情を全部理解した。
そしてやるせない思いが私を包んだ。
映画と実話は別物。
少しずつ設定や状況を変更している。
長い長い在日の物語を、
端的に「あのくに」のことを伝えられるように、
兄の現状が伝えられる様に、
父と母が何を思っているのかわかりやすいように、
見事に脚色されていると思った。
前回見た時よりもはるかに理解できた代わりに、
前回見た時よりもはるかに理不尽な思いに悶々とした。
この物語の背景を知れば、
おそらく「陰鬱」「退屈」なんて言葉は出てこない。
なぜこの兄はあのくににいるのか。
なぜこの兄はあの時ああいう言葉を父に言ったのか。
なぜこの兄は妹にあんなことを言ったのか。
たった16歳であのくにに渡った兄。
病気すら満足に治せないくにから来て、
理不尽な命令で帰国しなければならない兄。
誰もが腹を立てながら、
誰もが悲しいと思いながら、
誰もが悔しいと思いながら、
それを表に出すことはできない。
ただ母はありったけの小銭を抱えて走り出し、
精いっぱいの誠意をあのくにに示して見せる。
配役に文句がある人もいるらしいが、
この映画を作ること自体がかなりのハードル。
むしろこの映画に出演してくれた俳優たち、
彼らはヤン・ヨンヒ監督の心を理解してくれていたに違いない。
「新聞記者」に出演する日本人女優が居なかったように、
この映画でも困難はあったはずだ。
理不尽だし悔しいし悶々とする。
でも私はこの映画がとても好きだ。
素直に心を表現する妹。
演じる安藤サクラの演技も含めて、
彼女の思いに共感するし、
彼女の行動にも思いやりにも共感する。
本当に理不尽だ。
親も兄もあのくにも。
でもそれが現実だ。
そうしてあのくには国民を集めたのだ。
2024-02-06 13:31
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