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「罪と罰 白夜のラスコーリニコフ」 [DVD&Blu-ray]




『罪と罰 白夜のラスコーリニコフ』≪HDニューマスター版≫
★フィンランド・ユッシ賞 最優秀処女作品賞、最優秀脚本賞 受賞
1983年/フィンランド/カラー/ヴィスタ/93分/フィンランド語/モノラル/日本語字幕/原題:Rikos Ja Rangaistus/(C)Villealfa OY
アキ・カウリスマキ26歳、驚異の処女作。ヒッチコックでさえ映画化をためらった不朽の古典文学『罪と罰』に果敢に挑み、見事に映像化。
簡潔なカットとストイックなまでに抑制されえたセリフ。生のセンチメンタリズムを一切拒み、無常感とニヒリズムをたたえながら、思想なき氷のような世界を伝える。
労働者ラヒカイネン。かつては法学生だった彼は、ある日殺人を犯す。警察はある情報をもとに事件を怨恨の線から洗い出そうとするが、
容疑者ラヒカイネンは逃げも隠れもせず、まるでゲームのように警察の追求をかわす…。
監督・脚本:アキ・カウリスマキ/製作:ミカ・カウリスマキ/撮影:ティモ・サルミネン/共同脚本:パウリ・ペンティ/原作:ドストエフスキー『罪と罰』よりCAST:マルック・トイッカ、アイノ・セッポ、マッティ・ぺロンパー、エスコ・ニッカリ、オッリ・トゥオミネン

Amazon Prime Videoの無料を見終わったので、
年末に思い切って買った全集から、
未見のものを拾い始めた。

なんとまぁこれが処女作なのか。
全くと言って良いほど、
後のカウリスマキらしいユーモアが皆無で、
ただただ陰鬱なだけの身勝手な犯罪者。
そしてドストエフスキーで読んだときの宗教的な部分とか、
なんとなく救われる部分も皆無。
陰々滅々、最後の結論まで「天国なんてないさ」。

街中の情景が多かったので、
古いヨーロッパ車を観られるのは良かった。
それは本筋とは関係ないけれど。

なんで処女作にこれを選んだのか、
わからないわけではないけれど、
それでもこれはかなりのハードル。
と言うか、
そもそも棒高跳びのようなもので、
普通に言って「無理筋」。
多分誰がどう映像化しても、
ラスコーリニコフの内面は描ききれないし、
「100分de名著」でも掘り下げられたとは思っていない。

順番に観ているわけでもないし、
思いつきとその時の空き時間で選んでいるから、
カウリスマキがどう変わっていったのか、
それをまだ全然わかっていない私も悪い。

ただなぁ。

やっぱりこの作品はなかったと思う。
全然ダメとかではないし、
ロシアに近いフィンランドだからこそ、
いろいろと描きやすい部分もあっただろうし、
特に冒頭の食肉解体のシーンからの、
掃除をして血が流れるシーンは不穏さを象徴していて、
ものすごく何かを期待させる。
問題は悲惨さとユーモアもどちらも中途半端と言うことか。
時折「え?ここ笑って良いところ?」とかあるんだけど、
それがちょっと生々しい感じで迷っているうちに終わったり、
思いきり陰惨かと思えば特にすごい暴力もない。

「フィンランドの罪と罰はこんなモノだよ」

そういう風にとらえて良いのか?
疑問は残るがそうすることにする。


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「落下の解剖学」 [映画]



<STORY>人里離れた雪山の山荘で、男が転落死した。はじめは事故と思われたが、次第にベストセラー作家である妻サンドラ(ザンドラ・ヒュラー)に殺人容疑が向けられる。現場に居合わせたのは、視覚障がいのある11歳の息子だけ。事件の真相を追っていく中で、夫婦の秘密や嘘が暴露され、登場人物の数だけ〈真実〉が現れるが――。

ものすごく謎めいた話なんだけど、
これがまたネタバレがない。
ハッキリとしたネタバレは登場しない。
観る側に想像力と推理力を要求する。
半分以上は法廷劇で、
その度に数々の推理とともに、
想像が繰り広げられる。
唯一の目撃者は弱視の息子。
父親を殺したとして裁判にかけられる母親。
ドイツ人の母親とフランス人の父親、
フランスの山奥で暮らす前にいたのはロンドン。 
フランス語が余り得意ではない母親は、
夫婦での会話は英語でするが、
裁判は容赦なくフランス語。
夫婦間で家族間で、
果たして微妙な意思疎通はできていたのか。
裁判で母親は自らの言いたいことを言えるのか。
多くのファクターが与えられる中で、
観る側は何を信じて何が嘘か、
それを見抜けるのか2時間以上緊張感を強いられる。

フランス映画を観る楽しみの一つは、
登場人物が乗る車が語るその人の性格。
今回「おおっ!」と思ったのが友人の弁護士。
なんと306ブレークのナウシカグリーン。
力強く山道を登っていくその姿に、
「ああ、この弁護士は地味で確実で信頼に足る人だ」
車種の選択がそれを実感させてくれる。
20年以上前の年式の306ブレーク、
信頼に足る足回りと重量感と堅実さ。
インタビュアーはスズキのコンパクト。
これもまたクラスと機動力を感じさせる。
こういうところで映画の背景の作り込みの良さを感じる。

法廷劇だけど謎解きではない。
スッキリするかと言われれば、
そこが見所ではないと思う。
家族の歪んだ関係や不正直さ、
息子の事故に絡む思いが、
二人の中で重く暗い澱を残しており、
息子の怪我から金銭的にも困窮し、
フランスの山荘に引っ越すことになり、
妻は売れっ子の作家となり、
夫は書き物を形にできないまま、
その関係は更に歪んでいく。
つまりはその彼らの心の解剖。
落下した夫がそこに至るまでに、
一体彼らに何があって、
何がどういう反応を引き起こしたのか。

くれぐれも「ボーはおそれている」と、
「落下の解剖学」のダブルヘッダーはオススメしない。
日を分けてもなお疲労感が残る。
どちらも面白いのだけど、
頭の片隅にも心の奥底にも、
割り切れない酷い重石が残る。
もし両方とも笑い飛ばせる方がいるなら、
それはそれで止めないしオススメするけれど。


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