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「武士の家計簿 ―『加賀藩御算用者』の幕末維新」 [本]


武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)

武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)

  • 作者: 磯田 道史
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2003/04/10
  • メディア: 新書


内容(「BOOK」データベースより)
「金沢藩士猪山家文書」という武家文書に、精巧な「家計簿」が例を見ない完全な姿で遺されていた。国史研究史上、初めての発見と言ってよい。タイム・カプセルの蓋を開けてみれば、金融破綻、地価下落、リストラ、教育問題…など、猪山家は現代の我々が直面する問題を全て経験ずみだった!活き活きと復元された武士の暮らしを通じて、江戸時代に対する通念が覆され、全く違った「日本の近代」が見えてくる。

「武士は食わねど高楊枝」とはよく言ったもので、
「武士」とは言っても、
決して裕福なわけでもなく、
むしろ借金に追われていた事実には驚愕。
「武士」であることの名誉や収入よりも、
「武士」であることの身分費用支出が遙かに勝ったという、
士農工商の歪みや実態は予想を超えていた。

借金の利子を払うだけで精一杯の日々に、
思い切って身辺整理をした上に、
元金の四割を払う代わりに、
残りを無利子+年賦にしてもらうという、
今のサービサーも顔負けのことをしていたとは、
いやはや、
いくら加賀百万石の御算用者とはいえあっぱれ。
カネというものを知り尽くしているからこそ、
ここまでの英断ができたのであろう。

加賀百万石時代の話も面白いが、
幕末から維新を迎え、
社会が変わるのと同時に、
御算用者が必要とされる場が変わることも面白い。
何しろ時は明治を迎え富国強兵。
猪山家の人々はそこでも重宝されることになる。
そして苦しい台所事情を経験したからこそ、
危ない橋を渡ることなく、
地道に地道に俸禄を文字通り棒に振ることなく、
お家をきちんと守る道を選んでいく。

これが現代の会社員なら、
「ま、そんなもんでしょ」となるかもしれないが、
所詮一般人が知る「武士」の姿なんてものは、
大方切り捨て御免な無法者やら、
商人と手を組む悪代官だの、
時代劇のティピカルである種コミカルな存在なので、
その意外性とたくましさに驚かされる。

意外と知られていない下級武士の実態、
藩における御算用者の重要性、
その卓越した能力故に維新後も活躍する姿は、
表には出てこない明治維新のちょっとした出世物語、
下手な小説よりも遙かに面白い。
なるほど、
映画化されるのも分かる気がする。
コメント(2) 

コメント 2

Hi

面白い本をご紹介頂いてありがとうございました。
すぐに買って読んでみました。
やはりドキュメンタリーは説得力あります。
猪山家の経済事情もさることながら、維新後の親子の手紙の
内容がとても面白かったです。
by Hi (2010-03-05 20:14) 

KEY

維新以後の武士の姿というのは、
意外なほどに知られていないので私には新鮮でした。
維新の立役者ならいざ知らず、
普通に藩に属して時代の変化に立ち会った武士がどうなったのか、
その渦中で交わされる親子の手紙はリアルでしたね。
私はぜひ映画も観たいと思います。
by KEY (2010-03-05 20:40) 

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