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「落下の解剖学」 [映画]



<STORY>人里離れた雪山の山荘で、男が転落死した。はじめは事故と思われたが、次第にベストセラー作家である妻サンドラ(ザンドラ・ヒュラー)に殺人容疑が向けられる。現場に居合わせたのは、視覚障がいのある11歳の息子だけ。事件の真相を追っていく中で、夫婦の秘密や嘘が暴露され、登場人物の数だけ〈真実〉が現れるが――。

ものすごく謎めいた話なんだけど、
これがまたネタバレがない。
ハッキリとしたネタバレは登場しない。
観る側に想像力と推理力を要求する。
半分以上は法廷劇で、
その度に数々の推理とともに、
想像が繰り広げられる。
唯一の目撃者は弱視の息子。
父親を殺したとして裁判にかけられる母親。
ドイツ人の母親とフランス人の父親、
フランスの山奥で暮らす前にいたのはロンドン。 
フランス語が余り得意ではない母親は、
夫婦での会話は英語でするが、
裁判は容赦なくフランス語。
夫婦間で家族間で、
果たして微妙な意思疎通はできていたのか。
裁判で母親は自らの言いたいことを言えるのか。
多くのファクターが与えられる中で、
観る側は何を信じて何が嘘か、
それを見抜けるのか2時間以上緊張感を強いられる。

フランス映画を観る楽しみの一つは、
登場人物が乗る車が語るその人の性格。
今回「おおっ!」と思ったのが友人の弁護士。
なんと306ブレークのナウシカグリーン。
力強く山道を登っていくその姿に、
「ああ、この弁護士は地味で確実で信頼に足る人だ」
車種の選択がそれを実感させてくれる。
20年以上前の年式の306ブレーク、
信頼に足る足回りと重量感と堅実さ。
インタビュアーはスズキのコンパクト。
これもまたクラスと機動力を感じさせる。
こういうところで映画の背景の作り込みの良さを感じる。

法廷劇だけど謎解きではない。
スッキリするかと言われれば、
そこが見所ではないと思う。
家族の歪んだ関係や不正直さ、
息子の事故に絡む思いが、
二人の中で重く暗い澱を残しており、
息子の怪我から金銭的にも困窮し、
フランスの山荘に引っ越すことになり、
妻は売れっ子の作家となり、
夫は書き物を形にできないまま、
その関係は更に歪んでいく。
つまりはその彼らの心の解剖。
落下した夫がそこに至るまでに、
一体彼らに何があって、
何がどういう反応を引き起こしたのか。

くれぐれも「ボーはおそれている」と、
「落下の解剖学」のダブルヘッダーはオススメしない。
日を分けてもなお疲労感が残る。
どちらも面白いのだけど、
頭の片隅にも心の奥底にも、
割り切れない酷い重石が残る。
もし両方とも笑い飛ばせる方がいるなら、
それはそれで止めないしオススメするけれど。


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