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「ル・アーヴルの靴みがき」 [DVD]




ル・アーヴルの靴みがき(続・死ぬまでにこれは観ろ!) [DVD]

ル・アーヴルの靴みがき(続・死ぬまでにこれは観ろ!) [DVD]

  • 出版社/メーカー: キングレコード
  • 発売日: 2015/08/05
  • メディア: DVD


『街のあかり』などのフィンランドが誇る巨匠アキ・カウリスマキ監督によるヒューマン・ストーリー。フランスの北西部にある港町を舞台に、毎日を必死に生きる庶民たちの生活を描くと同時にヨーロッパとは切っても切れない関係にある難民問題についても問い掛ける。『白い花びら』でも共演したアンドレ・ウィルムとカティ・オウティネンが今回は仲むつまじい夫婦を好演。ごくありふれた人々が紡ぎ出す、心温まる奇跡の物語が観る者の琴線に触れる。

Blu-rayセットに収録されていない作品。
もはやメディアが絶版。
っつーか、なんでこんなに版権切らすんだよ。
おかげで久しぶりにレンタル落ち購入。

ル・アーヴルの庶民の温かさと人情。
みんな自分が苦労しているから、
大変なことがわかっているから優しい。
そしてその優しさはやがて最高の形で奇跡を起こす。

私がカウリスマキが好きなのは、
最後に希望と未来への道筋を照らしてくれるからだ。
それが甘っちょろいロマンチシズムであろうと、
人が人と信じ合うこと、
人が人と助け合うこと、
人が人と愛し合うこと、
その素晴らしさを見事な形で見せてくれる。
それは決して裏切らないし、
どこの国の誰の物語であろうと、
変わらぬ優しさと人としての本質を裏切らない。
ハラハラドキドキしながらも、
何処かで彼を信じているから、
最後の最後で微笑んでエンドロールを観られるから、
彼の映画を観たくてたまらなくなるのだ。

たまたま知り合った密入国をした難民の少年。
その彼を母親のいるロンドンへ送ろうと、
自分も決して裕福でもなく、
妻は病気で入院している靴磨きの男が、
一肌脱いで金を用意しようと奔走する。
その姿は静かなようで必死、
金が足りないとなると、
今度はチャリティコンサートの計画を立てて、
そのために彼を歌う気にさせるために頑張る。
そしてこのチャリティコンサート、
これがまた最高に格好いいのだ。
カウリスマキの音楽センスは毎度恐れ入る。

彼の持つ温かさの虜になったら、
もう二度と忘れられない。


ちなみに今回は、
この時代に合ったフランス車から、
懐かしくも古いフランス車まで堪能できた。

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「オッペンハイマー」 [映画]




本物のオッペンハイマー

本物のオッペンハイマー

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2023/08/30
  • メディア: Prime Video




オッペンハイマー 上 異才 (ハヤカワ文庫NF)

オッペンハイマー 上 異才 (ハヤカワ文庫NF)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2024/01/22
  • メディア: Kindle版



オッペンハイマー 中 原爆 (ハヤカワ文庫NF)

オッペンハイマー 中 原爆 (ハヤカワ文庫NF)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2024/01/22
  • メディア: Kindle版



オッペンハイマー 下 贖罪 (ハヤカワ文庫NF)

オッペンハイマー 下 贖罪 (ハヤカワ文庫NF)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2024/01/22
  • メディア: 文庫



マンハッタン計画 オッペンハイマーの栄光と罪

マンハッタン計画 オッペンハイマーの栄光と罪

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2024/02/21
  • メディア: Prime Video




Oppenheimer [Blu-ray] [2023] [Region Free]

Oppenheimer [Blu-ray] [2023] [Region Free]

  • 出版社/メーカー:
  • メディア: Blu-ray



半年以上待たされて、
その間にアメリカではメディアも発売されて、
一時は買おうかと思ったけれど、
日本語字幕がないから諦めて、
原作となった本は絶版。
フリマでオークションで高値。
やっと復刊したと思ったが、
上巻の途中までしか読めず、
見られたのはAmazon Prime Videoと「映像の世紀バタフライエフェクト」。
オッペンハイマーという人を理解するため、
準備が必要だったのは、
日本人にとっては「原爆の父」とも言われる人の、
人間的側面の情報に触れる機会は少なく、
自分が何も知らない状態だったから。

「オッペンハイマー」(原題:アメリカン・プロメテウス)の上巻、
燃焼時から学生時代までを読んで、
この知識を入れておくことは大きいと思った。
後に「学者バカ」とか「世間知らず」のように言われる人にありがちな、
純粋に学問をすることが好きで、
だけど人間としては性格も手先も不器用で、
それが故にのめり込んだら抜け出せない、
何処か人間として情動的に問題のある人、
そういう人であると言うことを知っていおいたのは、
映画を見る上に置いてとても重要なベースになった。

結論から言ってしまえば、
おっペンハイバーという人は非常に複雑で、
内的にも外的にも矛盾を多々抱えていて、
決して倫理的な人でもなければ、
必ずしも良き夫でも良き父親でもなく、
良き科学者でもなかったことは確か。
彼は本当に「理論物理学者」であり、
自分は傑出した手腕があったわけではないけれど、
多くの専門家の知識と手腕をまとめ上げる能力、
そういう意味での洞察や管理能力に優れていた人。
そしてその能力を最大限群と政府に利用された人。
そう言うことなのだ。
そしてその人間としての欠損故に、
敵を作って過去をほじくり出されて、
彼が原爆使用の後にした発言を取り上げられ、
結果的に彼は追い込まれたのだ、

原爆を作ろうとした動機は「ナチスを壊滅させるため」。
ユダヤ人だった彼にとって、
アウシュビッツで行われていることを思えば、
それは決して無理もないことだった。
あの当時はアメリカ、ドイツ、日本が、
原爆をどこが一番先に作るのかを競っていた。
もちろん作る=使用するなのだが、
しかし結果的にほぼ完成に近づいたところで、
ナチスは降伏してドイツとの戦争は終わる。
軍としては20億ドルをかけたこのプロジェクト、
その成果を何処かで見せることが必要。
そこで見つけた目的が、
「戦争を終わらせることで犠牲者も減らせる」という大義名分で、
日本に原爆投下をすることだった。

徹頭徹尾、
あくまでも理論物理学者だったオッペンハイマーは、
「ナチスを滅ぼす」という大義名分の元に利用され、
余りにも純粋で何かが欠損していた彼は、
それが大量破壊兵器になることも承知、
理論上計算上では、
もしかしたら世界が滅びることにナルコとも勝利、
それでもやらなきゃいられなくなってしまう。
そして広島長崎の営巣、レポートを見せられたとき、
彼は正視することを拒否している。
日本に来たときのコメントでは、
「原爆投下を後悔はしていない」と言ったが、
彼は科学者としては決して後悔していないだろうが、
人間としては違ったのではないだろうか。
学者としては作ったら試したくなる。
だから日本への原爆投下に反対の署名は拒否した。
でも実際にその被害を目の当たりにすることさえできない。
彼は単なる学者。
優秀であるが故に軍に利用された学者。

おそらく広島長崎の人には、
私の主観は受け入れられないだろう。
どんなことがあってもあんなにも残虐な大量殺戮兵器を作った、
そのことの罪は免れないと考えられて当然だ。
何しろ彼は「アメリカン・プロメテウス」なのだから。
彼自身が感じた血塗られた手は決してキレイにはならない。
その感情は理解できる。
だからそのことは否定しないし受け入れる。
だけどこのことはいくら議論しても不毛だ。
彼は作ってしまったし、
軍と政府は投下してしまった。
その事実は変えられないのだから。

さて、映画本体。
いやはや、ノーランには恐れ入った。
こんなにも濃密な人間ドラマを、
彼が脚色して撮影できるとは思っていなかった。
最初1時間は多少かったるい。
説明は細かくはしないが、
オッペンハイマーの学者としてどういう人か、
人間として男としてどういう人間か、
そういうものが描かれているので、
多少なりとも退屈な時間ではある。
ただし私は本で彼のそれ以前を読んでいたので、
ものすごく納得したし、
彼の欠損した部分についての描写に、
「これが後の伏線になる」と思えた。
そこからは怒濤の展開。
彼が陰謀によって追い詰められて行く様子、
追い詰める方が得意げに語る様子、
その緊迫と一瞬も聞き逃せない台詞が続く。
きっかけは些細なことだったけれど、
コンプレックスの塊だったストローズが、
何気ないエリートで裕福なオッペンハイマーの発した言葉から、
こんな事態にまで発展するなんて、
オッペンハイマーには想像もつかなかっただろう。

俳優の人数が多すぎて、
いちいち褒めていたらきりがない。
なので少しだけ。
エミリー・ブラント演じる妻は、
最初から複雑な関係からスタートして、
いつも肝心な所では肝っ玉の据わったおっかさん。
オッペンハイマーにとっては妻と言うより母親だ。
その凄味足るや、
クライマックスの目線一つで人を射殺しそうだった。
そしてトム・コンティ演じるアインシュタイン。
彼は原爆の製造を大統領に助言した。
しかし彼はその罪も自分の中で引き受けていた。
あのお茶目な表情で知られたアインシュタインを、
実に辛気くさく、しかし懐が深い人とiして、
しっかりと演じていたのが感動的。
「水爆の父」となるテラーを演じたベニー・サフディ、
これがまた独特の存在感で、
複雑な思いを抱えて対立しながら、
水爆に反対するオッペンハイマーへの反感を静かに爆発させる。
アカデミー賞受賞俳優はもう当然だから割愛する。
もう本当にちょい役だけど重要ならラミ・マレック、
彼の科学者らしい冷静で理路整然とした口調の素晴らしさ、
ジョシュ・ハートネットの落ち着いた大人としての口調、
不安定で魅力的な女性を体現するフローレンス・ピュー、
書き出したらきりがない。
個人的には最高の演技で最高過ぎた、
ケネス・ブラナー演じるボーア。
あの説得力と人間としての存在感は傑出していた。
オッペンハイマーに影響を与える人物として、
彼は見事なまでに彼の心を決めさせるのと同時に、
大きくかき乱す役割を果たす。

今回私は敢えてシネマスコープで観た。
最初の1回目はこれでちゃんと理解したかった。
そしてラッキーだったことに、
これが特別な音響であるSAIONのスクリーンで、
唯一上映される時間帯が当たった。
これが最高だった。
スクリーンは無理なく全視野に映像も字幕も入る、
そして迫力の音響効果。
実際にシートがフルエルほどの音響なのだ。
そしてこのあとIMAX上映に挑む。
我ながらなかなかいい選択だったと思う。

画面がカラーからモノクロに切り替わるし、
時系列はバラバラだし、
いろいろと錯綜しながら映画はすすむ。
だから一度で理解するのは難しいかもしれない。
でもそれならば何度でも観れば良い。
なんででも観て楽しむ価値がある。
そういう映画だ。
そしてこれは原爆製造と原爆投下を正当化した映画ではない。
むしろ製造したことによって死の神となり、
投下したことで破壊の神となった男、
その男の複雑に引き裂かれる心と人生、
そしてその彼に人生を狂わされた人たちの物語。
でも実際に彼は軍に利用された学者だ。



余談。
映画終了後20代半ばくらいのカップルの会話。
彼女:「すごかったん」
彼氏:「え、でも3時間まではいらないよ:

貴方がどう思うか、
劇場で是非ご覧ください。

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