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「MOCT 「ソ連」を伝えたモスクワ放送の日本人」 [電子書籍]


MOCT 「ソ連」を伝えたモスクワ放送の日本人

MOCT 「ソ連」を伝えたモスクワ放送の日本人

  • 作者: 青島 顕
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2023/11/24
  • メディア: 単行本


2023年 第21回 開高健ノンフィクション賞受賞作。
MOCT(モスト)とは、
ロシア語で「橋」「架け橋」のこと。
カバーの写真は、モスクワ市ピャートニツカヤ通り25番地にあったモスクワ放送。
その6階に「日本課」があった。
東西冷戦下、そこから発信される日本語放送。
その現場では、少なくない数の日本人が業務を担っていた。
彼らはどんな人物だったのか。
そして、志したのは報道だったのか、
プロパガンダ(政治的宣伝)だったのか。
それとも、両国に「MOCT(架け橋)」を築くことだったのか……。

友人が書店でこの本を探してもらった。 
そして一生懸命探してもらって買えたことに感謝していた。
そんなポストを読みながら、
「あ、私も読みたい」と思った。
私は簡単に電子書籍で買ってしまったが、
なかなか家で読書の時間が取れなくて、
会社で空き時間にPCで読むにはもっけの幸いなのだ。

なぜこの本に惹かれたのか。
理由は簡単。
大体1973年くらいの10年くらいだが、
私は意図せずにモスクワ放送を聴いていた。
聴いていたと言うよりは、
神奈川では受信しやすいニッポン放送、
その周波数と8khzしか離れていないモスクワ放送は、
昔のダイヤル式のチューナーでは良く聞こえて、
なんとなくそのまま聴くことがあったのだ。
そしてこの本の宣伝文句に「岡田嘉子」の文字。
戦前に共産主義の国へと愛人と亡命した女優。 
その名前にも惹かれていた。

当時は冷戦時代。
ソビエト連邦というのはコワイ国だと思っていた。
私有財産は許されず、
贅沢も許されず、
みんなが平等に勤労奉仕、
何かというとアメリカと対立して、
核の陰がちらついている国だった。
「共産主義」「社会主義」というものはよくわからなくても、
「自由がない国」という印象は強く持っていた。
その国から届けられる「モスクワ放送」。 
流暢な日本語で読み上げられるニュース。 
余り音楽を聴いた覚えはないのだが、
子供心に「日本語がうまいんだなー」と思っていた。
なにしろ小学生の頃だったから無知だった。 
そしてそれがプロパガンダだということも知らなかった。
ただ異国からの放送と言うことで、
なんとはなしに耳にしていた。

この本を手にするまで、
あれが日本人のアナウンサー、喋り手だったことを考えもしなかった。
思えばシベリア抑留などもあったし、
ソビエト連邦の日本人がいないはずもなく、
また岡田嘉子のことも知っていたが、
まさか彼女がそこで喋っていたことなど想像もしなかった。
ソビエト連邦の中の日本。
様々に指導者が替わり、
情勢も世の趨勢も変わり続ける中、
ラジオ放送からインターネット放送に形態を変更し、
そしてモスクワ放送はその役目を終えていた。

ラジオ放送によるプロパガンダは、
CIAも使っていた方法なので、
それをソ連がやらないはずもなく、
それによって少しでも共産主義、社会主義を広めること、
それを目的に放送は行われていた。
そしてそこに在籍した人たちの数奇な人生。
全く知らない人たちではあるが、
確実にこの人たちの声を私は聞いていたのだ。
在籍した人たちの人生を丹念に追ったリポート、
そこには不思議な人たちが集っていたように思う。
考えてみればアメポチである日本人、
その日本人の中でロシア語に堪能であったり、
望んでロシアに渡ったり駐在すると言うことは、
充分過ぎるほどにちょっと変わっている。
だから彼らの人生が謎に包まれていても、
或いは激しく「普通」と言われる道から外れていても、
それは全く何の不思議もないと思う。 
だからこそとても興味深く、
謎の多い人生だったりするのが面白い。
何よりもあの頃は想像もしなかった、
「日本人」がモスクワ放送で喋っていたという事実。
それが私には新鮮であり嬉しかった。

今はradikoで聴くようになり、
チューナーラジオはカーラジオくらいになった。
それも自動で音声を拾ってチューニングしてくれるから、
あまり予想外の音声を聞くこともない。
それはそれでクリアな音声で良いのだが、
なんともアナログな楽しみはなくなってしまった。
ある意味ソビエト連邦という巨大国家、
そのプロパガンダとして存在したモスクワ放送、
いまやラジオ放送ではプロパガンダにはならないだろうし、
今はインターネットという文明の利器が存在し、
かつての様なやり方は必要なくなった。
そしてソビエト連邦は解体して、
東欧諸国も民主化していった。

しかし今またロシアはかつてのソビエト連邦へと戻りたがっている。
それはプーチンとその取り巻きだけなのかもしれないが、
武器を手に取り、
自分達に逆らうものたちを毒殺している。
時代が逆行している。
かつてモスクワ放送に在籍し、
まだ存命の人たちは今何を思うだろう?
共産党がある以上当然とするのか、
スターリンの再来とするのか、
それとも新しいロシアの政治体制の在り方とするのか。
彼の国から遠くにいる私にはわからない。



余談だが、
あのオッペンハイマーの周囲には共産党員が多かった。
そんな話もまたいろいろと歴史として繋がっていて面白いと思っている。

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