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「精神」 [ストリーミング]


精神 [DVD]

精神 [DVD]

  • 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
  • 発売日: 2010/07/24
  • メディア: DVD


STORY
「正気」とは?「狂気」とは?
外来の精神科診療所「こらーる岡山」に集う様々な患者たち。病気に苦しみ自殺未遂を繰り返す人もいれば、病気とつき合いながら、哲学や信仰、芸術を深めていく人もいる。涙あり、笑いあり、母がいて、子がいて、孤独と出会いがある。そこには社会の縮図が見える。代表である山本昌知医師のモットーは、「病気ではなく人を看る」、「本人の話に耳を傾ける」、「人薬(ひとぐすり)」。『精神は』診療所の世界をつぶさに観察。「正気」と「狂気」の境界線を問い直すと同時に、心の傷はどうしたら癒されるのか、正面から問いかける。

5月2日から公開予定だった、
想田監督のドキュメンタリー「精神ゼロ」は、
今のご時世の影響を受けて当然映画館は閉鎖中。
その代わりどこの映画館を選ぶかは利用者が選んで、
「仮説の映画館」という形でネット上で公開される。
逆に実際の映画館が利用しにくシステムのミニシアターだと、
この利用方法は私には幸いであり、
今回利用してみようという気になった。

と言うことで、
その前に同じ山本医師を扱った「精神」から観ることにした。

あわよくば一気に両方観てしまおうとしたが、
思った以上に患者のインタビューに心が疲弊してしまい、
「精神ゼロ」は翌日以降に持ち越すことにした。
これはおそらく精神的健常者にはわからないのだが、
多くの患者たちが追い詰められて精神のバランスを崩している。
追い詰めるのは母親だったり父親だったり、
或いは自分自身だったりする。
この「自分自身」が特に健常者には理解できない。
自分の限界を超えたところまで頑張り続ける、
自分はダメな人間だと鞭打って人並みになろうとする。
患者の口から語られるその言葉に、
私は胸が詰まってしまった。
母親から否定され続け、
自分が女としての存在意義を失ったとき、
私は完全に自分の存在理由を見失った。
だからストイックを通り越して自分を痛めつけた。
その時には父親にも否定的な言葉を吐かれ、
それ以来10年口もきかずに疎遠になっていた。
患者たちのインタビューは他人事ではなかった。

山本医師の優しく穏やかにゆっくりと喋る口調は、
患者の言うことに耳を傾けながら、
やりたいことややったことを否定するのではなく、
そこに認知の歪みがあればやんわりと指摘する、
実に時間のかかる非効率的な診察である。
大病院の診療科では許されない。
そして患者からのSOSに岡山から名古屋へ向かうなど、
決して患者からの助けを求める声を無視しない。
何十年も通う患者が多いのも、
こうした心の声をちゃんと聴く医師だからだ。
それは当たり前のようだけれど、
今精神科や心療内科は患者があふれていて、
3分診療と投薬だけが多くなっているのも事実なのだ。
そうした中で、
私の主治医もまたタイプは違うが、
山本医師のように精神療法に時間をかけてくれる人で、
本当に良い医師にみてもらえて良かったと思っている。
10年以上も通っているが信頼できるかかりつけ医だ。

精神を病んだ患者が求めているのは、
「話を聴いてくれること」なのだ。
健常者には何でもないことが心に刺さる。
或いは深く考えすぎてしまう。
人の顔色を見すぎてしまう。
空気を読みすぎてしまう。
そんな自分を少しでも楽にしてくれる存在として、
医師やカウンセラーや心理療法士を求める。
中には空気も読まず自分勝手に思える人もいるが、
それは主治医に言わせれば、
「心の垣根が低い人」なのだそうだ。
空気を読んでも読まなくてもその度合いが極端だと、
健常者からは異端者扱いされる。
私たちはそんな存在なのだ。

心の傷も身体の傷も、
人によって大きさも深さも違う。
持っている体力や精神力も違うから、
治療法も治り方もそれぞれ違ってくる。
ただ心の傷は眼に見えない。
器質的に時間が経てば治るというものでもない。
健常者にはそれが理解できないから「正気」と「狂気」に分けられる。
でも私たちは全員狂気を抱えているわけではない。
傷の痛みに耐えきれずに暴発することはあるが、
それとて狂気の範疇に入るとは限らない。
そこには眼に見える壁などない。
想田監督の言葉で言えばカーテンなどない。
だからこそフラットな気持ちでこの作品を観て欲しい。
最初から色眼鏡で見られたら、
それはもう最初からカーテンを引かれているのと同じなのだ。

精神科や心療内科の待合室は静かだ。
みんながみんなに気を遣っている。
一部の健常者が想像するような、
奇声を発する患者やおかしな行動をする患者はみたことがない。
それだけ私たちは自分達の存在に気をつけている。
最初から偏見というカーテンを引かれていることを自覚しているのだ。

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「アンダーグラウンド」 [映画]


アンダーグラウンド [Blu-ray]

アンダーグラウンド [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: 復刻シネマライブラリー
  • 発売日: 2018/06/22
  • メディア: Blu-ray


内容紹介
昔、ある所に国があった。
20世紀を代表するエミール・クストリッツァ監督の映像叙事詩。
1941年、ドイツ軍はユーゴスラビアの各地に侵攻していった。共産党のマルコとクロは、金の密売と武器取引により大金を稼いでいた。そしてクロが恋焦がれる舞台女優のナタリアは、ナチスの将校フランツに近づき、車椅子の弟バタと共に生き延びようとしていた。
マルコは、ドイツ軍から逃れた人々を祖父の地下室へと送り、武器を製造させていた。そこに臨月のクロの妻ヴェラと、マルコの弟イヴァンも避難する。産気づいたヴェラは男の子を産み、ヨヴァンと名付けてほしいと伝え、命を落とす。
ナタリアを連れ結婚式会場の船へと向ったクロ。そこにフランツ率いるドイツ軍がやってくる。ナタリアはフランツに駆け寄り、彼女を追ったクロはドイツ軍に捕らえられてしまう。船で逃げ出したマルコは、病院に潜入する。クロは、激しい拷問を受けながらも、沈黙を貫いていた。
マルコはクロを救出し、祖父の地下室へと運び込む。そしてナタリアを誘惑し、自分のものとする。終戦を迎えたユーゴスラビアで、マルコはチトーの側近となり、順調に出世していく。
1961年。国民はクロを抵抗運動に殉じた英雄として崇拝していた。しかし、実際はマルコとナタリアが暮らす屋敷の地下で、武器を製造する一団のリーダーとして君臨していた。マルコは偽のラジオ放送を流し、まだ戦争は続いていると地下の人々に思い込ませていた。
旧ユーゴスラヴィア出身の鬼才、エミール・クストリッツァが祖国の戦後の歴史を、ユーモアと寓意、そして哀しみに満ちたブラックなファンタジーとして描き出す。

この手の映画を時折放送してくれるから、
WOWOWの契約は止められない。
製作年度に関係なく、
名作、快作を含めて。

ずっと観たかったのだが、
いかんせん廉価版のメディアもなく、
何処かで観られないか探していたら、
放送してくれたのでこれ幸いと。
ただし3時間ものとなると覚悟して観ないと。

緊急事態宣言の自粛状態は、
ある意味アンダーグラウンドの市民たちを思わせる。
戦争は終わっているのに、
アンダーグラウンドの人々は何も知らず、
武器の製造をひたすらに続けている。
アンダーグラウンドにはアンダーグラウンドの生活が成立している。
ナチスに蹂躙された土地では、
そうして暮らすことが何よりの安全だったのだろう。
そして時代が過ぎても、
外の世界を知ることとなっても、
ユーゴスラヴィアは政治と権力と戦争に翻弄される。
これは日本人には想像もつかない世界だ。
それをエミール・クストリッツァ監督は、
ユーモアたっぷりに音楽たっぷりに、
彼独特のスタイルで軽妙にかつ苦しみも哀しみも隠さず、
強欲で傲慢な人間の姿もありのままに、
じっくりと時間をかけて、
時代の変遷と共に描き出す。

元はと言えば、
大竹まことが好きな監督として知ったのだが、
細部の表現に大竹まことの美学や、
シティボーイズに通じるシュールさがある。
小劇場やシュールなコントが好きな人には、
おそらく約3時間退屈することなく楽しめると思う。
そのくらいにスゴイスケールの名作だと思う。
軽妙な音楽と深刻になりすぎない描写が、
実は重い話を軽妙洒脱に演出されて終始楽しい。

映像も美しいし、
この世界は今こそ、
抑圧された今だからこそ観ておくべきだろう。
非常に良いものを観た、
爽快な気分である。

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「パターソン」 [映画]


パターソン [Blu-ray]

パターソン [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: バップ
  • 発売日: 2018/03/07
  • メディア: Blu-ray


【ストーリー】
妻にキスし、バスを走らせ、愛犬と散歩する、いつもと変わらない日々。
それは美しさと愛しさに溢れた、かけがえのない物語。
ニュージャージー州パターソンに住むバス運転手のパターソン(アダム・ドライバー)。彼の1日は朝、隣に眠る妻ローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)にキスをして始まる。
いつものように仕事に向かい、乗務をこなす中で、心に浮かぶ詩を秘密のノートに書きとめていく。
帰宅して妻と夕食を取り、愛犬マーヴィンと夜の散歩。バーへ立ち寄り、1杯だけ飲んで帰宅しローラの隣で眠りにつく。
そんな一見代わり映えのしない毎日。
パターソンの日々を、ユニークな人々との交流と、思いがけない出会いと共に描く、ユーモアと優しさに溢れた7日間の物語。

緊急事態宣言がでている今、
街中の人たちが自警団のようになっていたり、
魔女狩りが始まっている今、
こんな何でもない日常の、
オフビートなユーモアを描いたジム・ジャームッシュがちょうど良い。
とても心地良く時間を過ごせる。
多分パターソンは自覚していないけれど、
何でもない日常と、
静かに刺激的な妻と、
思いがけないことのバランスが心地良いはず。
こんな日常を私たちも早く取り戻したい。

こういう何でもない普通の男、
普通に演じさせるとアダム・ドライバーって、
本当に味のある巧い役者だと思う。
外見に特徴があるのに、
風景に埋没する術を知っているかのように、
普通の男を普通に演じる。

見始める前は何一つ期待していなかったけれど、
見始めたら心に凪のようなものが訪れて、
今までに経験したことがないような、
不思議な感覚を覚えながらいつの間にか埋没。
平凡で何事も起こらない毎日が貴重だと、
日々感じる最近だからこそ、
この日常がたまらなく愛おしい。

映画館に行かれない寂しさは埋まらないけれど、
思いがけない自分の子心の機微に触れたとき、
やはり映画のある人生は素晴らしいと思う。

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