SSブログ

「最前線の映画」を読む Vol.2 映画には「動機」がある [本]


「最前線の映画」を読む Vol.2 映画には「動機」がある (インターナショナル新書)

「最前線の映画」を読む Vol.2 映画には「動機」がある (インターナショナル新書)

  • 作者: 町山 智浩
  • 出版社/メーカー: 集英社インターナショナル
  • 発売日: 2020/06/05
  • メディア: 新書


内容(「BOOK」データベースより)
名作・傑作と呼ばれる映画には、かならず作り手の「動機」が隠されている!アカデミー賞受賞作『ROMA/ローマ』『シェイプ・オブ・ウォーター』『スリー・ビルボード』『ファントム・スレッド』をはじめ、『パターソン』『アンダー・ザ・シルバーレイク』『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』など、近年の話題の映画を深読み。

すべての映画を観ていたわけではないが、
とにかくそれなりに癖のある作品が並んでいる。
癖のある監督というのが正しいのかもしれない。
素直に画面から情報を受け取って、
それを自分なりに消化して味わうのもありだが、
一癖も二癖もある監督の作品は、
その裏に控えたある意味ねじ曲がった意図を知るとさらに面白い。
「動機」というものは人それぞれであり、
当然表現の方法も様座である。
ここに登場する監督たちは映画という方法を採択して、
自らの心に巣くっている思いを発散する。
その発散方法には不快なものもあるし、
愉快なものもあるけれど、
一見しただけでは理解しがたいものも多い。
監督の思いが深ければ深いほど、
ねじ曲がっていればねじ曲がっているほど、
深い意味を持ちある意味ダークな思い入れを持つ。
それを読み解くのが本書だからたまらない。

そもそも町山さんん映画解説は、
その作品が作られた社会背景や時代背景を含んでいる。
だから他の映画評論とは一線を画すわけで、
そこに監督の思いや背景、生い立ちなどを加えたら、
そりゃもう面白いに決まっているのだ。
そして取り上げられた作品は好みのものばかり。
「ファントム・スレッド」などはあまりにも好みすぎて、
自分で掘り下げて楽しんでいたくらいだ。
このあと「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」を観て、
同じ監督の作品であることを知らなかったが、
こらえきれずにメディアを買ってしまったほど、
PTAとダニエル・デイ・ルイスのコンビの持つ熱量と、
不可思議な世界観にはまってしまった。
なぜ自分がそこまではまったのか、
町山さんの「動機」解説に思いっきり首を縦に振りながら、
心のなかが不思議な感覚で満たされた。

ここに登場する監督たちは、
おそらくふた昔前くらいのアカデミー賞には見向きもされなかったと思う。
実はそのくらいに少々王道から外れ、
ストーリーも演出も「え?」と思うことがあるのだ。
その監督たちがなぜ表舞台で注目され、
アカデミー賞を受賞するようなところまで来たのか、
それもまた時代背景、社会的背景も含めて、
考え合わせると実に面白いものである。
1作1作について知ることも重要だが、
すべての作品について絡み合った時代や変化を考えると、
ますます映画は楽しいものになってくる。

コロナ禍で映画館に行けなかった2か月間、
TVで観ていても満たされない思いが溜まっていた。
やはり映画は映画館で観たいなぁと思う。
実はこの本に登場する映画はほぼ映画館で観ていない。
本当に惜しいことをしたと今改めて感じている。

コメント(0) 

「アス」 [ストリーミング]


【Amazon.co.jp限定】アス ブルーレイ+DVD(非売品プレスシート付) [Blu-ray]

【Amazon.co.jp限定】アス ブルーレイ+DVD(非売品プレスシート付) [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
  • 発売日: 2020/02/21
  • メディア: Blu-ray


【ストーリー】
1986年、少女アデレードは、両親と訪れたサンタクルーズにある遊園地のミラーハウスに迷い込み、
そこで自分にそっくりな少女に遭遇。それが強烈なトラウマとなり失語症となってしまう。
そして現代、成長したアデレードは、家族とともに夏休みを過ごすため、因縁深いサンタクルーズの家を訪れる。
そこで不気味な偶然に見舞われ、過去のトラウマがフラッシュバックし、アデレードは家族の身に恐ろしい事が起こるという妄想を強めていく。
その夜、家の前に自分達一家とそっくりな“わたしたち"がやってくる・・・。

この監督の前作「ゲット・アウト」も恐かったけど、
こっちの方が最初の不気味さがスケールアップ。
「恐い」という点ではこっちの方が、
遙かに恐いし不気味だししぶとい。

しかし若干興ざめなのは、
「ゲット・アウト」の時もそうだけど、
この監督は何かしら科学的根拠が欲しいらしくて、
それが明かされたときに、
「そうだったのか」と思うのか、
「それが種明かし?」と思うのか、
「だから何?」と思うのか、
その受け取り方で恐怖心が変わってしまう。
個人的には理由は要らないから、
「わけのわからない存在」があった方が良かったし、
その方が恐かったかも知れない。
とはいえ、
その理由がないと最後のさらなる恐怖に繋がらないのだけれど。

ホラーとしては上質だと思うので、
ちょっと軽い気持ちで観るのではなく、
しっかりと肝に銘じて味わった方が良い。

私も町山さんの紹介から随分時間がたってしまったが、
覚悟して臨んだので楽しめた方だと思う。
エンドシーンも含めて恐怖は続くし、
こういうホラーは終わりがない方が好み。

昨日までなかった隣人や友人への違和感、
こういう題材は昔からあるけど、
新たなる視点で掘り下げるのもあり。

コメント(0) 

「T-34 ナチスが恐れた最強戦車」 [映画]


T-34 ナチスが恐れた最強戦車 [DVD]

T-34 ナチスが恐れた最強戦車 [DVD]

  • 出版社/メーカー: ギャガ
  • 発売日: 2020/06/03
  • メディア: DVD


内容(「Oricon」データベースより)
1940年ソビエト。最新式の戦車T-34をスターリンにお披露目するため、モスクワまで内密に運ばれることになった。しかし情報をつかんだナチスは将来の脅威になると恐れ、戦車を破壊するべく襲撃を計画する…。モスクワまで800km、2台の戦車を無事に届けることが出来るのか…。独ソ戦開戦前夜の攻防を描いた戦争アクションエンタテインメント。

アトロクで三宅隆太監督がオススメしていて、
「ロシア映画は最近面白いし、
 エンタメ性も高そうで良いなぁ」と思っていた、
たまたムービープラスで放送するのを発見。

なかなかに面白いっす。
実話ベースにいろいろ脚色したみたいだけど、
山賊もどきが出てきてみたり、
例によって色男と女性の当然の成り行きあり、
敵対するナチス(だけどオーストリア)がやらかしちゃったり、
けっこう笑えるしユーモアのセンスも良い。
全体にシリアスな感じは薄くて、
戦争エンタテインメントなのに戦争のドンパチはなくて、
「こういう話もありか」と思わせてくれる。

こういう映画も悪くないなぁと思わず唸ってしまった。
さすが三宅監督でございます。


コメント(0) 

「空母いぶき」 [映画]


空母いぶき [Blu-ray]

空母いぶき [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: バンダイナムコアーツ
  • 発売日: 2019/12/05
  • メディア: Blu-ray


内容(「Oricon」データベースより)
20XX年、12月23日未明。未曾有の事態が日本を襲う。沖ノ鳥島の西方450キロ、波留間群島初島に国籍不明の武装集団が上陸、わが国の領土が占領されたのだ。海上自衛隊は直ちに小笠原諸島沖で訓練航海中の第5護衛隊群に出動を命じた。その旗艦こそ、自衛隊初の航空機搭載型護衛艦《いぶき》だった…。かわぐちかいじ原作漫画を実写映画化!西島秀俊、佐々木蔵之介ほか出演。

つまんねぇ。 

全然緊迫感ないし。
街中の様子も暢気すぎるし。

一瞬金出して観ようかと思ったけど、
観なくて正解。

コメント(0) 

「ランボー 最後の戦場」 [ストリーミング]


ランボー 最後の戦場 エクステンデッド・カット [Blu-ray]

ランボー 最後の戦場 エクステンデッド・カット [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: ギャガ
  • 発売日: 2020/06/26
  • メディア: Blu-ray


内容(「キネマ旬報社」データベースより)
シルベスター・スタローン主演のアクションシリーズ第4作に追加シーンをプラスしたエクステンデッド・カット。タイ北部で暮らしていたランボーは、ある日内戦の続くミャンマーへ向かう支援団を助けるのだが…。

ラストシーンが観たくてやはり、ね。
まさかその後にあんな地獄が待っているとは、
これを最初に見たときには思ってもいなかったけど。

それにしても、
笑っちゃうくらいに血と肉片が飛び散るし、
頭はボンボン吹き飛ぶし、
ものすごい残虐度w。
「ラスト・ブラッド」ではひたすらに痛かった殺戮シーンが、
「最後の戦場」では笑っちゃう。
もう非現実的としか思えなくなってくる。
感覚の麻痺ですな。
でも現実はこちらなんですわ。
人が死ぬってことはこういうこと。

本当に「これでもう充分、これ以上は無理」って感じ。

シーンが血まみれでおどろおどろしいほどに凄惨なほど、
最後のシーンが効果的というもの。
ええ、この当時は「めでたしめでたし」と思っていたので。

それじゃ落とし前つけたと思わないところが、
ハリウッドのすごいところだし、
そこを突き詰めるのがスライのすごいところ。
彼は最後の最後に自分のために人を殺す決意をするわけで。
そう思うとここまでは大義名分があるし、
正義がそこにあると思えるから不思議。

なんにしてもこのシリーズ、
単なるアクション映画ではなくて、
そこの裏に潜む寡黙なランボーの心を読まないと、
本当の意味はわからない。

本当にスライってば、
良いシリーズと良いキャラクターをしっかり演じている。
この人はもっと評価されないと。

コメント(0) 

「ランボー」 [ストリーミング]


ランボー 4K レストア版 [Blu-ray]

ランボー 4K レストア版 [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
  • 発売日: 2020/02/14
  • メディア: Blu-ray


内容(「キネマ旬報社」データベースより)
シルヴェスター・スタローン主演の人気アクションシリーズ第1弾。ベトナム帰りの復員兵・ランボーは、ある町で警察から屈辱的な扱いを受ける。怒りを爆発させた彼は、数百人の警官を相手に死闘を繰り広げる。

「ラスト・ブラッド」からの「ファースト・ブラッド」。

やはりこの作品はいつ観ても、
ランボーのベトナム帰還兵としての苦悩と、
トラウマが強く描かれているのが魅力。
ここから「怒りの脱出」「怒りのアフガン」と、
殺人マシンとしての能力だけがクローズアップされてしまうけれど、
本当に原作者が描きたかったのは、
ベトナム帰還兵たちのPTSDと居場所のないつらさ。

ここから「最後の戦場」に繋がって、
これがまた凄まじい。
そして「ラスト・ブラッド」に繋がる。

と言うことで、
このシリーズは1,4,5と観れば一番良いと思う。
彼の物語はそこに充分描かれている。

ので「最後の戦場」」も観ちゃうんだろうなw。
コメント(0) 

「ランボー ラスト・ブラッド」 [映画]



元グリーンベレーの真骨頂
史上最強の頭脳戦が今、はじまるーー
孤独な戦いは終わりを告げ、ようやく訪れた、“家族”と過ごす幸せな時間。 その平穏が破られた時、男の怒りは頂点へ――。 いまだベトナム戦争の悪夢にさいなまれる元グリーンベレー、ジョン・ランボー。孤独な戦いを経て、祖国アメリカへと戻ったランボーは、故郷アリゾナの牧場で、古い友人のマリアとその孫娘ガブリエラと共に、“家族”として穏やかな生活を送っていた。しかしガブリエラがメキシコの人身売買カルテルに拉致され、事態は急転する。愛する“娘”を救出するため、ランボーは元グリーンベレーのスキルを総動員し、想像を絶する戦闘準備を始めるのだった――。

もう言葉を失うしかなかった。
なんの感想を持つことができるだろうか。
今まで戦争の悪夢に苛まれ、
戦争の中で孤独に戦ってきたランボーが、
愛する家族のために、
大義名分ではなく「憎しみ」のために戦う。
それはもはやなんの躊躇もなく、
今までの機械的な殺人マシーンに「憎しみ」が上乗せされたとき、
そこにあるのは無慈悲な殺戮・・・。

彼の持つ能力を愛するもののために使ったとき、
ここまで凄惨を極めるとは、
あの地下室の存在からも、
彼の闇の深さが今またより一層実感できる。
「舐めてた相手が殺人マシンだった」
彼が愛するものを奪った奴らの不運を嘆くしかない。
そしてレイティングも関係なく、
ランボーの心の闇と無念さを描ききったこの作品は、
間違いなくランボーの心の終着点。
ラストシーンで涙が止まらなかったのは、
1作目からずっとランボーを観てきて、
彼の苦しみ、PTSD、差別の根深さがわかっているから。

老いたランボーの戦い方は今までとは違う。
だから終始戦って走るランボーを想像してはいけない。
御大スライも73歳なのだし。
しかしそこはさすがにわかっている。
敵地に乗り込んでケンカを売って来るや、
自らの庭に誘い込んで縦横無尽に暴れて、
容赦なく命を奪う。
そのやり方は本当に凄惨で今までのシリーズ史上一番の非道さ。
ランボーをそこまでにしたのは、
平和を奪った奴らなので自業自得なのだが。

スライも老いて、
いろいろな意味でけりをつけ始めている。
それはさみしいことなのだが、
ちゃんと納得のいく内容になっており、
そのパワーは老いたりと言えども衰えず。

もう一度シリーズを見直したくなる、
その魅力はただの殺人マシンではないところにある。
まずは第1作を観て彼の苦悩の始まりをみんなに知って欲しい。
そしてスタローンの演技が素晴らしいことも知って欲しい。

コメント(0) 

「アシュラ」 [ストリーミング]


アシュラ [Blu-ray]

アシュラ [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • 発売日: 2017/07/21
  • メディア: Blu-ray


[STORY]
堕ちていく2人の男、権力にしがみつく狂気、そして、歪んだ正義を貫く鬼。
欲望に駆られた男たちの生き残りを賭けた闘いが始まる―
アンナム市の刑事ドギョン(チョン・ウソン)は、街の利権を牛耳る市長ソンベ(ファン・ジョンミン)のために裏の仕事を引き受けていた。
しかし、市長の逮捕に燃える検事チャイン(クァク・ドウォン)がドギョンを脅し、市長の不正の証拠を掴もうと画策。
事態はドギョンを慕う刑事ソンモ(チュ・ジフン)をも巻き込み、生き残りを賭けた欲と憎悪が剥き出しの闘争へとなだれ込んでいく。

韓国ノワールここに極まれり。
ここまで腹黒い悪い奴らが集結すると、
本当にどこまでも救いがなくなる。
だけどいつもの権力闘争をする韓国ノワールとどこか違う。
根本的に何かが違う。

と思っていたら、
エンディングテーマが流れ始めたときに、
その理由がわかった気がする。
つまりこれは悪徳保安官が街を支配する西部劇、
そこで甘い汁を吸いながらも、
二重スパイのような立場に立たされ、
結果として街全体が破滅に向かっていく、
韓国式現代版西部劇だったのだ。

そう考えると、
それぞれの人物の立場や役割がわかってくる。
通常の韓国ノワールよりもなお、
最後の最後まで全く救いのないストーリーは、
あの葬儀場を出れば、
街も警察も検察も浄化されたことを示しており、
あの街の未来が明るいことを示している。
もちろんそんなことは微塵も感じさせない、
血みどろで死体累々のクライマックスではあるが。

想ったほどに陰惨さを感じさせないのは、
とにかくどいつもこいつもなりふり構わない、
とんでもないワルばかりだからだ。
良心のかけらが微塵も見えないところがむしろ清々しい。

私の好きな韓国ノワールとちょっとテイストは違うが、
こういう話も好きw。

コメント(0) 

「永遠の門 ゴッホの見た未来」 [ストリーミング]


永遠の門 ゴッホの見た未来 [DVD]

永遠の門 ゴッホの見た未来 [DVD]

  • 出版社/メーカー: 松竹
  • 発売日: 2020/06/03
  • メディア: DVD


【ストーリー】
パリでは全く評価されなかったゴッホは、「新しい光を見つけたい」と南フランスのアルルへ向かう。どこまでも続く大地、風になびく麦の穂や沈みゆく太陽を見つめるゴッホは、「永遠が見えるのは僕だけなのか」と自身に問いかける。そんな中、パリからやって来たゴーギャンに心酔するゴッホだったが、共同生活は長くは続かなかった。孤独を抱えて、ひたすら自らが見た世界をカンバスに写し取るゴッホは、やがて「未来の人々のために、神は私を画家にした」と思い至る。晴れ晴れと穏やかなその瞳が最期に映したものとは――。

劇場公開時から観たかった作品。
ウィレム・デフォーがゴッホにしか見えないほどに、
憑依されたかのように思えたから。
彼の死についても病気についても興味があった。

結論。
彼は早すぎた天才であり、
世間から評価されないこと、
友人の成功で自分の存在を見失いながら、
それでも絵筆を持つことで自画を保ち、
とことん運に見放された人生だったと言うこと。

ただそれは他者から観た評価であり、
本人が不幸だったかと言えばそうでもないと思う。
もちろんいろいろなことで絶望は味わっただろう。
しかしその中にも彼は自分の絵に対する姿勢は保ち続けたし、
精神病院でも決して彼は不幸な監禁生活ではなかったと思う。
そして彼はやはり天才であるが故、
絵筆を握ることで世界を忘れてしまい、
その世界に浸ることができたのだ。
それこそが他者からすれば最も不幸なことであり、
本人からすれば最も幸福なことであった。

だから彼は永遠の門を見つけられたし、
そこに迎え入れられたのだと思う。
父親が聖職者だった影響もあるだろう。
彼が自然をそのままに受け入れ、
自らの心に映ったままに表現し、
世間の評価辛味はなされながらも表現し続けたのは、
永遠を観ることが出来たからなのだ。

この当時の芸術家の人生は、
これが不幸だったのか幸福だったのか、
当たり前だったのか異端だったのか、
それすらわからない。
そして彼の死の謎についてもまた同様。

ただ一つ。
彼は紛うことなき天才であり、
不遇の天才であった。
しかしそれは他者からの評価に過ぎない。
本人は何を思っていたのか、
今となっては知る術はない。

コメント(0) 

「家族を想うとき」 [ストリーミング]


家族を想うとき[Blu-ray]

家族を想うとき[Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: バップ
  • 発売日: 2020/06/17
  • メディア: Blu-ray


内容(「Oricon」データベースより)
イギリス、ニューカッスル。ターナー家の父リッキーはマイホーム購入の夢をかなえるため、フランチャイズの宅配ドライバーとして独立を決意。母のアビーはパートタイムの介護福祉士として、時間外まで1日中働いている。家族を幸せにするはずの仕事が家族との時間を奪っていき、子供たちは寂しい想いを募らせてゆく。そんな中、リッキーがある事件に巻き込まれてしまい…。

町山さんが紹介したときから、
どうしても観なくちゃいけないと思いつつ、
とうとうストリーミングまで観られなかった痛恨の一作。
ケン・ローチ監督が引退を撤回してまで描きたかった、
世界中で起こっている働き方と家族の問題。

世界中で宅配ドライバーの恩恵にあずかっていない人間はいないだろう。
しかしそこにある働き方は、
金を得るためには朝から晩まで働き、
家族を幸せにするためには家族を犠牲にし、
仕事に穴を空ければクズだカスだと言われる。
フランチャイズ制で一国一城の主のようだが、
そこにあるのは単なる請負ドライバーの地獄。
介護職の妻もまた、
良心的であればあるほど追い詰められる。
二人の苦悩は子供たちにも伝播し、
思わぬ事件に巻き込まれてしまい・・・。

「わたしは、ダニエル・ブレイク」も本当に切なかったが、
この映画も切ない。
何が切ないと言って、
どちらも悪人はいないし、
誰もが自分達の責任を果たそうとしているだけなのだ。
けれどその責任を果たしたところで、
誰一人幸せになれない。
誰一人満足のいく思いが得られない。
そしてそれが世界中に蔓延している。
その現実はどうにも救いようがないし、
搾取されている事実は変わらない。
やるせない思いが残るだけ。

コロナ禍でハッキリした世界の「人を想う力」。
その根本がここにあるような気がする。
イギリスはかつて「ゆりかごから墓場まで」という福祉国家だった。
それをサッチャー時代の政治が変えてしまい、
今ではケン・ローチが描く映画の世界が現実だ。
日本は福祉国家であったことはないが、
それでも少なくとも「和」があり「輪」があり、
その中で助け合う心意気があった。
今は他人のその心の広さを分け与える余裕がない。

とことん救われない話である。
原題「Sorry,We missed you.」。
不在通知の言葉だが、
「申し訳ないけど、貴方がいなくて私たちはさみしい」とも訳せる。
1日14時間週に6日働く父親に、
家族が向ける言葉にも思える。
そんな働き方で誰が幸せを買える?
人間性をとことんまで切り詰めた働き方と生活で。

コロナ禍で医療従事者やその家族を差別する。
或いはリモートワークできないエッセンシャルワークの人たちを差別する。
そんな時代に未来など来ない。
なんという世界になってしまったのか。

コメント(0)