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「朝鮮大学校物語」 [本]


朝鮮大学校物語 (角川文庫)

朝鮮大学校物語 (角川文庫)

  • 作者: ヤン ヨンヒ
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/06/10
  • メディア: 文庫


自由が故のしんどさなら、挑む価値がある──。分断を超えていく少女の物語
「ここは日本ではありません」全寮制、日本語禁止、無断外出厳禁。18歳のミヨンが飛びこんだ大学は高い塀の中だった。東京に実在するもうひとつの〈北朝鮮〉を舞台に描く、自由をめぐる物語。解説・岸政彦

友人から進められて「かぞくのくに」を観た。
同じように「スープとイデオロギー」を観た。
どちらも激しく心を揺さぶられて感動した。
その友人からこの本も進められたので信じて読んでみた。

そこは全く知らない世界だった。
朝鮮大学校。
北朝鮮の在日子女のための学校。
北朝鮮のために人材を育てるための学校。
全寮制の大学校の中は北朝鮮。
偉大なる国家元首をたたえ、
そのために努力し生きることを誓う。
両親が朝鮮籍を選んだがゆえに、
ミヨンはこの学校に入れられる。
彼女は演劇や映画にあこがれて、
大阪から東京に来られたことを喜んではいたが、
その窮屈な生活に驚きながらも、
自分が信じる方向に向かって歩み、
問題児となりながらも自分の生きる道を定めていく。

ヤン・ヨンヒ監督自身を思わせるミヨン、
甘酸っぱい初恋は、
その相手が朝鮮人であることに何の偏見も持たず、
ごく自然に受け入れてもらえたことは幸いであった。
一番偏見に満ちているのは、
学内の教師たちであり、
無理やり北朝鮮の思想に染めて、
偉大なる指導者のために生きることを強要することだ。

「イムジン河」などのエピソードから、
朝鮮学校の話は読んできたが、
内部の人間による、
詳細に描かれたその方針と思想はやはりショッキングだった。
その中で決して染まることなく、
自分の頭で考えておかしいことはおかしいといい、
意に沿わないことには従うことをしないミヨンの強さは、
青春小説としても励まされるものだろうし、
そのまっすぐさに感動するだろう。
結果としてミヨンがどういう道を選ぶのか、
それはある意味「かぞくのくに」とは対照的で、
兄弟のことがあるからこそ、
北朝鮮訪問でやっと会えた姉のことがあるからこそ、
ピョンヤン駅で見かけた現実があるからこそ、
彼女は自分の歩む道をしっかりと自分で決める。
そしてその先で再び交わりあう縁。
なんと心地よく温かく素晴らしい生き方なのか。

最初陰鬱な感じのする学校の状況から始まったので、
どうなるかと思っていたら、
ミヨンの自分を曲げない生き方と、
好きをあきらめないまっすぐさに救われる。
こんなにも気持ちのいい話と読後感になるとは思わなかったので、
余計に感動したし、最高だと思える最後だった。

ヤン・ヨンヒ監督を紹介してくれた友人には、
ひたすら感謝。

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「今日拾った言葉たち」 [本]


今日拾った言葉たち

今日拾った言葉たち

  • 作者: 武田砂鉄
  • 出版社/メーカー: 暮しの手帖社
  • 発売日: 2022/09/16
  • メディア: Kindle版


気鋭のライターが、不安だらけの現代を問う!
新聞、テレビ、ラジオ、書籍、雑誌、SNSなどから、著者の心の網にかかった言葉を拾い上げ、その裏に隠れた本質に根気よく迫る『暮しの手帖』の人気連載が、充実の一冊になりました。2016~2022年上半期分に大幅に加筆し、書き下ろしコラムや総論を収録。
人々が発する言葉の意味や、そこに映る「今」を見つめます。

武田砂鉄、怒濤の出版イヤーの最後を飾る一冊。
まぁ砂鉄さんらしい、
言葉に対する引っかかり、執着と思索を重ねたエッセイ。
毎日何気なく目にして耳にして流れていく言葉。
その言葉の意味や深い感情に思いを寄せる。
なかなか普通の人間にはそんなことはできない。
「ふ~ん」で流してしまうのが日常だ。
そこを流さないで拾うのが砂鉄流。
合間に入るコラムも秀逸で、
今年の最後を飾るにふさわしい内容だ思う。
そして年を追うごとに、
その言葉が持つ意味合いや深刻さの度合いが深くなっていく、
そのことが非常に不安になった一冊でもある。

あとがきで「あの日」のことを振り返っている。
あの日は金曜日だった。
もうすぐ正午、昼休みと言うときにスマホに速報が走った。
最初は状況がわからず「なにが?」と思っていたが、
やがて明らかになってきた状況に対して、
「ああ、もうあとは死亡宣告だけだ」と思っていた。
そして「金曜日だから砂鉄さんの言葉が聞けるな」と漠然と考えた。
論破が幅を利かせる状況を危惧し、
わかっていることと推測をつなぎ合わせ、
無理やりにことの成り行きを作り上げることに警戒を促し、
2日後に迫った参院選に向けた言葉を投げかけた。

あの日もっとも言葉を聴きたいと思った人は、
大竹さんでもチキさんでもなく砂鉄さんだった。
だからいつものように冷静に(本人はしどろもどろと言っている)、
丁寧に慎重に言葉を選んで話す内容と真摯な態度に、
衝撃的だった日の自分を落ち着けてくれるのは、
やはりこの人しかいないのだと思っていた。

肩書きはライター。
でも話を聴く度に強く思う。
この人はライターではあるが、
本質的には思索家なのだ。
考えたことを巧みに言葉にできるから、
それを自分で表現できるライターと名乗っているだけ。
ご本人曰く、
「自分は目の前のことをただ一生懸命やっているだけで、 
 先のこととか余り考えていない。」そうだ。
でもだからこそ目の前の、
そこにある言葉について考えることも拾うこともできるのだろう。
目の前の言葉だからこそ忖度もなしに、
ただただ自分が感じたように考えたように、
その思いを表現できるのだろう。

奇しくも本書の「この頃の出来事」にも、
小田嶋隆さんの訃報が登場するが、
小田嶋さんの軽快に楽しそうに言葉を操るのとは対極だが、
この二人の文章は本当に信頼できるし、
読んでいてみぞおちにドシンと落ちてくるような感覚に襲われる。
タイプは違うけれど、
小田嶋さん亡き後の椅子にちょっとずつ、
遠慮がちに座っている砂鉄さんが見えてきた。

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「観なかった映画」 [本]


観なかった映画

観なかった映画

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2017/03/31
  • メディア: 単行本


映画ファンたちの話はなにかと「すごい」。
「今年は何百本も観た」「あの監督はすべて観た」と盛り上がる。
「観なかった」側は、その話には入れない。
でも、映画の中で何が起きているのかを語るだけで、
映画を語れるのではないか?
マニアックな語りから遠く離れて、
映画にしかできないことに注目する、
長嶋有&ブルボン小林、初の映画評論集!

ブルボン小林のマンガに対する目線が好きだ。
然るに映画に対しても面白そうだと思い、
以前から読みたいと思っていた一冊。

楽しい。 
変に評論家ヅラしていないので、
面白がるところがちょっと違ったり、
スゴイ映画は素直にスゴイと言ったり、
ちょっと昔の映画を思い出しながら読む。
そしてこの本で気付かされたこと。
四半世紀前くらいに観た映画って、
VHSで観ていたと言うこと。
今やDVDも通り越して、
4K UHD Blu-rayが自宅で観られる時代、
大きな劇場の画面で観たならいざ知らず、
VHSの(今考えると)不鮮明な画像で、
暗い画面の映画などは何を見ていたのだろうかと。

そんな矢先に「セブン」がWOWOWで放送されて、
それこそ20何年ぶりかで観たのだが、
今観ると陰惨な殺人事件の場面が、
クッキリハッキリディテールまで見える。
過去には見えなかったものが見える時代。
そんな単純なことも気付かなかった自分。

で、以前から観たかったけれど、
今ひとつ決め手に欠けて観なかった映画も、
ブルボン小林の手にかかると、
「あ。これは観ておいた方がよさそう」と思える。
今回あらためて思ったのは「RED/レッド」。
好きな役者が多く出ているのに、
この手の映画は当たり外れが大きいので手を出さなかった。
その反対に今観るかどうか迷っているのは、
「まぼろしの市街戦」。
もはやカルトと化している作品。
やっとザ・シネマHDで録画できたので、
HDDに控えているのだが。

ことほど左様に映画など嗜好品だから、
それぞれの好みで全く評価が変わって当たり前。
余程信頼できる人や評論家でもない限り、
100%好みが一致したり、
或いは評価を信用しきれるものではない。
ブルボン小林は映画評論を気取らない。
自分の目で見て自分の評価を書くだけ。

案外それが信用できるものである。

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「日本橋に生まれて 本音を申せば」 [本]


日本橋に生まれて 本音を申せば

日本橋に生まれて 本音を申せば

  • 作者: 小林 信彦
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2022/01/26
  • メディア: 単行本


「映画は子供のころから見ていた。東京は日本橋区の生れで、和菓子屋の九代目の長男で、親や番頭に可愛がられながら育ったから、そういうことになる。」
自らをそう振り返る小林信彦さんが、折にふれて観なおす名画の話。八十何年かの人生をいろどる幸福な出会い。名著に加筆を施した『決定版 日本の喜劇人』のこと・・・。
「週刊文春」で23年連載された名物コラム『本音を申せば』シリーズが、本書をもって完結します。
第一部「奔流の中での出会い」は、野坂昭如さん、山川方夫さん、渥美清さん、植木等さん、長部日出雄さん、大瀧詠一さん、江戸川乱歩さんなど、ひときわゆかり深い17名の思い出。
第二部「最後に、本音を申せば」は、2021年のクロニクル。NHKBSプレミアムで放映される映画のラインナップが上質なのに感心し、『日本の喜劇人』に加筆して「決定版」を刊行された年でした。
「数少い読者へ」と題した最終回が「週刊文春」に掲載されると、愛読してこられた読者の方々からのお便りが、編集部に続々と寄せられました。長年のご愛読に感謝しつつお届けする最終巻。平野甲賀さんのフォントを題字に使用し、本文挿絵は小林泰彦さんです。

読み終えてしまうのが惜しかった。
読み終えてしまうのが怖かった。
これで終わりなのだと思うと寂しかった。

いつもなら一気に読んでしまうクロニクルエッセイも、
ぽつぽつと雨だれのように読み進め、
読みたい本が他にある時(常時だが)は、
そちらを読んでこちらを止める。
「本音を申せば」が終わってしまうのが悲しくて、
いつか終わるとわかっていたし、
筆者が脳梗塞をしてからは「いつか」と覚悟はしていたが、
それでも受け入れるのはつらかった。

週刊文春での連載はとうに終わっていたわけだが、
私は毎年刊行される単行本を楽しみにしていたので、
なにか週刊文春を買う用事があれば読む程度。
前年の映画や出来事を振り返るのが楽しみだった。
その楽しみがこれで終わってしまうのかという思いは、
考えていた以上に覚悟ができていない自分を思い知らされた。

脳梗塞を患われてから、
当然行動することが制限されるから、
どうしても日常の暮らしのこと、
テレビなど身の回りのことが中心になる。
そのことは理解していても、
なかなか受け入れがたいというか、
それまでの筆者の暮らしと比べてもの悲しさを覚えていた。
もちろん今年も変わりない。

「クロニクルがクロニクルじゃなくなったな」

今年の文章は読んでいてそう思った。
だからこれがいいころ合いだったのだ。
筆者の健康状態や年齢のことも鑑みれば、
いつまでも同じでいられるわけがない。
本を閉じたときに「終わった」という思いは、
「ありがとう」という思いと同時訪れた。

思えばこのクロニクルエッセイとの出会いは、
私がうつ病で自宅療養していた時、
新刊を買う経済力はなかったので、
毎日のようにブックオフをふらついているときだった。
「人生は五十一から」
文庫になっていたそれを手に取ってすぐさま購入することにした。
筆者の名前は存じ上げていたが、
不勉強なことに文章を読んだことがなかった。
しかし読み始めたら相性の良さだろう、
次々とブックオフで探し出して読み続けた。
再度働くことができるようになり、
少し高い本が買えるようになってからは、
毎年刊行されるハードカバーも買うようになった。
筆者のほかの作品も探し出して追いかけて読んだ。
気が付けば私自身がいつの間にか五十一をはるかに超えた。

映画と喜劇とラジオを愛し、
その世界のいろいろな見方を教わった。
本当に長い間お疲れさまでした。
また新しい文章に出会えることを楽しみにしています。



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「マーベル・シネマティック・ユニバース音楽考」 [本]


マーベル・シネマティック・ユニバース音楽考 映画から聴こえるポップミュージックの意味

マーベル・シネマティック・ユニバース音楽考 映画から聴こえるポップミュージックの意味

  • 出版社/メーカー: イースト・プレス
  • 発売日: 2022/07/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


MCUが起こしたサウンドトラック革命!
MCU作品はヒーローたちの個性が光る“アクション"や“人間ドラマ"が魅力的だが、同時にヒーローたちの活躍に彩りを与える“音楽"もまた魅力の一つと言える。オリジナルの劇伴や歌だけでなく、往年の名曲を取り入れるなど、それぞれの作品の個性をより色濃く際立たせている。本作ではフェーズ1〜3の23作品で使用された140曲以上に及ぶポップミュージックの背景や選曲意図を徹底考察!その選曲の意図や効果について、作品ごとに様々な角度から徹底的に分析・考察する!
「ポップミュージックと映画を結びつけ、両者に橋を架けること。映画の歴史全体に照らしても、50年分の華々しい達成のあとでさえ、マーベル・スタジオが今行っていることは、特別で大きなものだと私たちは考えています。のちに「マーベル・シネマティック・ユニバース」と呼ばれることになる映画シリーズが2008年に始まったとき、つまり『アイアンマン』が公開されたとき、開巻いきなり響きわたるハードロックがすべての変化の始まりでした。そこにはすべての予兆が含まれていたと、今ならはっきりとわかります」(本書まえがきより)

マーベルをつまみ食い的に観てきた、
要するに順番無視で観てきた。
単体が単体として成立する物語も多いだけに、
それでも充分に面白可笑しく観られてきた。
「この世界観は子供だましじゃない。 
 これは壮大なユニバースの物語だ」
そう気付いたのはかなりフェーズ3が押し迫ってからの話で、
そこまで適当にしか観ていなかった自分は、
印象的なポップミュージックには気付いていたが、
熱狂的にはまるほどではなかったのは物語同様。

で、この本が出ることになって、
「こりゃゆっくり読んで、
 ことあらば本編を見直さなければ」と。

ありがたいことにフェーズ1から順番に、
音楽と場面を振り返ってくれるので、
私のようなつまみ食いファンには非常にありがたい。
時系列で整理ができるので、
これがめちゃくちゃありがたいのである。
とはいえ、
未だ「アントマン」2作は未見なのだがw。
特にロマンティックなシーンや、
緊迫したシーンで流れるポップミュージックの歌詞の意味、
これが実に響いてくる。
「そんな意味があったのか」
もうそれだけでまた胸キュンである。
読んでいる途中で映画を観たくなるので、
もう一度全部を振り返りながら読みながら観る、
そう言う愉しみ方もありな一冊で、
何度も美味しい思いができてしまう。

英語ネイティブではない自分には、
こうした解説本があってこそ、
より一層深くマーベルを楽しめるというもの。
だからこそこの一冊は高くない。
何度も反芻できるだけに安いくらい。



それにしても、
町山さんは「アメリカ人は歌詞なんか聴いていない」って言っていたけど、
マーベルのよく考えられたこの曲あて、
もしかしてわかっていない人も多いのかしら?

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「別に怒ってない」 [本]


べつに怒ってない (単行本)

べつに怒ってない (単行本)

  • 作者: 武田 砂鉄
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2022/07/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


いつ読んでも、どこから読んでもなんだか面白い! タイムレスな魅力のあるエッセイ集。

◎居酒屋のトイレの男女表記が騎士と貴婦人なのはやめてほしい
◎郵便物を待つのが好き
◎歯医者の時間を決めるスムーズなやり方がわからない
◎クレーマーおじさんと喫茶店で相席になり、メニューを取る手が重なったが恋は生まれそうになっていない
……などなど、見逃せないほどでもないが、気にならないわけではない現象に拘泥し、考えすぎのプロ・武田砂鉄らしいしつこさで考えを深めていく!
不毛な考えが豊かに花開く、「日経MJ」連載から厳選したエッセイ123本詰め。

とにかく想像力が豊かだ。
もともとしつこく考え続ける人だし、
とにかくよくよく考えている人なので、
「この人、一人っ子で時間がたくさんあったのかな?」と思っていた。
お母様のお話などを聴くにつれ、
「一人っ子」という思いは強くなったのだが、
先日お兄様がいることがわかった。
だとしたら、
この性格はそう言うこととは関係なく、
とにかく子供のころから、
「日の当たる場所」を避けるように、
できるだけ「少数派」でいられるように、
そうやって生きてきたその賜物、
と、言うことが本書でよくわかった。

普段のラジオ出演の折り、
どうしても一番若いことが多いので、
「若い」という刷り込みがこちらにされている。
しかしこうしてエッセイを読むと、
それなりの中年男性であることを知る。
それでも自分との年齢差を考えれば、
充分に若いのだけれど。

そう言う不思議な思い込みと刷り込みが、
こちらにあるものだから、
意外な側面というか、
普段の姿をこうして読むと楽しい。
申し訳ないが楽しんでしまう。
そして「ほうほう、砂鉄さんでもこんなことを思うのか」とほくそ笑み、
更に「考えすぎ、想像力がありすぎ」と笑う。

とにかく森羅万象、
ありとあらゆるものを擬人化して想像力を働かせる。
そこからの展開が常人とはちょっと違う。

それにしても愛すべき人だ。
こういう人がパーソナリティとして愛される。
ラジオで人気が出たのも当然のことだ。
どこか特徴的なパーソナリティを持っていること。
それが「ラジオパーソナリティ」と言われる所以だ。

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「今日もマンガを読んでいる」 [本]


今日もマンガを読んでいる

今日もマンガを読んでいる

  • 作者: 宇垣 美里
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2021/12/14
  • メディア: 単行本


週刊文春の人気連載「宇垣総裁のマンガ党宣言!」を書籍化。
宇垣美里が選りすぐった傑作マンガの数々を熱量たっぷりに評します。
「マイメロ論」で話題になった「Quick Japan」巻頭随筆をはじめ、TBSアナウンサー時代に執筆したエッセイ8篇も特別収録。

アトロクの特集で登場した武田砂鉄氏に、
「文章が強い」と言わせしめて、
急激に興味が湧いて読んでみた。

正直局アナ時代の宇垣は好きじゃなかった。
今思えば型にはめようとする世間に、
必死で抗ってもがいている様が痛々しかった。
そのまま自然体でいても充分固定的なのに、
求められているからという以上に頑張りすぎていた。
結果的に彼女の曜日を聞かなくなり、
特集が好きなときだけ聴くようになった。
しかし最近特集の時に聴いていると、
彼女もすっかり憑きものが落ちたのか、
フリーになって型枠がなくなって、
自分を自由に遊ばせる余裕ができたのか。

確かに文章が強い。
しかしその文章には既視感がある。
私だw。
好きなものに対しては目一杯ぞんざいで直接的な物言いになる。
勢いが付いて止まらない。
どうやら彼女もそう言うタイプのようだ。
ここまで彼女を遠ざけてきたのは、
もしかして同族嫌悪だったのか?

もうすでに彼女のオススメマンガを買ってしまった。
今のところ巻数が少ないものだが、
多分まだしばらくは読み続けるだろう。
それほどまでに彼女の文章は強く、
そのまたおまけにオススメ上手なのだ。
読み終わったらまた感想は書くが、
最近新しいマンガの開拓ができていなかったので、
良いオススメをしてもらった気分で嬉しい。

好きなものは好き、
嫌いなものは嫌い、
取り繕うことがない彼女の文章は、
気持ちよくて心地良くて格好いい。

いや、ホント、
宇垣を見直した。
天は二物を与えずとは言うが、
めちゃくちゃな才能を与えたものだ。
むしろ容姿が邪魔なくらいに。

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「マイ修行映画」 [本]


マイ修行映画

マイ修行映画

  • 作者: みうらじゅん
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2022/06/09
  • メディア: 単行本


エッセイ×マンガでたどる7年間の「修行映画」鑑賞の記録を一冊に!
映画館は僕にとって日常からの逃避の場であり、道場でもある。
「自分に向いていない映画」を求めて劇場に通い、「つまらな……」が出そうになった瞬間「そこがいいんじゃない!」と唱えれば、あらゆる映画に「マイ価値観」が生まれる!
『007』や『ミッション:インポッシブル』など人気シリーズ作品、『若おかみは小学生!』『君の名は。』などアニメ作品、『シン・ゴジラ』『ゴジラvsコング』など怪獣もの、『先生!、、、好きになってもいいですか?』『俺物語!!』などマンガが原作の青春もの、『クロール―凶暴領域―』『THE POOL ザ・プール』などワニ系パニック映画、『科捜研の女―劇場版―』『劇場版おっさんずラブ~LOVE or DEAD~』などテレビドラマの劇場版……ほか、恋愛映画からホラー映画、大メジャー作からマニアックな作品まで、軽妙なエッセイと絶妙な似顔絵が楽しすぎるマンガで紹介。
雑誌「映画秘宝」人気長期連載を一気読み!

「映画秘宝」とともにあったこの連載。
これにて成仏となるのか。 
毎月読んでいたわけではないが、
とにかくこのゆるい映画鑑賞の記録は唯一無二。
これを読まずに死ねるか。

と、なんでこんな調子なのかと言えば、
この中で突き刺さった映画が、
「残されたものー北の極地ー」だからである。
いきなり極寒の地に取り残されたマッツ・ミケルセンが、
なにやらひたすら奮闘するらしい。
こうしたサバイバル映画、
決して嫌いではない。
いや、むしろ結構好きかもしれない。
そしてハリウッド的ハッピーエンドではなく、
ひたすら不幸と絶望の底に落ちる方が好き。
読んでいたバスの中で早速アマプラ検索。
しっかりあるではないか。
この猛暑の日差しが降り注ぐ外界をものともせず、
エアコンの利いた部屋で観るには最高だ。
というわけで、
今、私はなぜか無意味にやる気満々なのだ。

という妙なテンションにさせるMJ。
特にこのコラムはおかしすぎる。
MJの視点がおかしいのと、
そもそも見ている映画がおかしいのと、
掲載されていた雑誌がおかしかったのと、
何重にも「変な世界」が折り重なっているから、
とんでもない世界がここにはある。

Mjにとっての修行映画を綴るコラムは、
ある意味ある界隈の人々にとっては、
読むことでさらなる修行を強いることとなる。

あ、いや、
修行を強いられる方がまともな人たちだとは思うけどね。

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「名著の話 僕とカフカのひきこもり」 [本]


名著の話 僕とカフカのひきこもり (角川学芸出版単行本)

名著の話 僕とカフカのひきこもり (角川学芸出版単行本)

  • 作者: 伊集院 光
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/02/16
  • メディア: Kindle版


NHK「100分de名著」で出会った約100冊より、伊集院光が、心に刺さった3冊を厳選。名著をよく知る3人と再会し、時間無制限で新たに徹底トークを繰り広げる、100分de語りきれない名著対談!

■川島隆(京都大学准教授)と語る、カフカ『変身』
 ──“虫体質な僕ら”の観察日記

■石井正己(東京学芸大学教授)と語る、柳田国男『遠野物語』
 ──おもしろかなしい、くさしょっぱい話たち

■若松英輔(批評家、随筆家)と語る、神谷美恵子『生きがいについて』
 ──人生の締め切りを感じたとき出会う本

このタイミングで上梓されて、
番組が終わるのが惜しいように、
読み終わるのが惜しくて、
少しずつ少しずつ読み進めた。

「100分de名著」を観ていていつも思うのが、
伊集院さんの素直な言葉の真っ直ぐに突き刺さる様。
それはこの本で知ったのだけれど、
事前に彼が本を読まないで番組に臨むという立場、
その役割を素直に果たしているのだと言うこと。
だから高校時代に引きこもりになって、
そのまま高校を中退して、
好きだった落語の世界に身を投じた自分を、
「変身」のグレゴール・ザムザに重ねる。
家族の対応をやはり自分の家族に重ねる。
そもそも伊集院さんのラジオを聴いている人は知っているが、
彼は今でもかなり精神的に波のある人だ。
年齢を重ねたからと言ってそれが変わるわけじゃない。
ただ自分もそうなのだが、
経験上自分を誤魔化す術を何とか身につけるだけ。
その伊集院さんの生の精神状態というか、
自分で表現できることを話にしたラジオを聴きながら、
リスナーはある意味安心感を得て笑いを得る。
「自分より面白いのがコワイから人のラジオは聴かない」
ラジオの覇王とまで言われる人がである。
それほどまでに繊細で物事を真面目にとらえ、
深く考えすぎてしまう人なのだ。

だからこそその真摯な姿勢と、
リスナーに面白いものを提供しようとする気持ち、
それが痛いほどわかる。
伊集院さんのラジオを聴いている人は、
皆それを感じ取っているに違いない。

だからこの本での対談を読みながら、
伊集院さんが文学に真面目に取り組んで、
自分の中で落としていく様は胸が熱くなるほどである。
私たちと変わらない立場でものを感じ取り、
疑問や思ったことを口にしてくれる。
そしてそれにまた真剣に答える先生たち。
質の良い大学の授業や講義を聴いているかのようで、
深くて気持ちが揺さぶられてその後落ち着く、
そして視界が開けるような時間である。

伊集院さんは自分を偽らない。
偽ろうとしたときは自ら申告して止める。
だからリスナーは信頼を寄せる。
語らない言葉の陰にあるものを読み取ろうとする。
それはこれからも変わらない。

引きこもって自分の弱さもわかっていて、
その時のつらさもわかっているから、
ここまで深く読み解くことができる。
その真面目さと面白さが比例する人。
だからこそ譲れないこともあるはず。

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「ひとまず上出来」 [本]


ひとまず上出来 (文春e-book)

ひとまず上出来 (文春e-book)

  • 作者: ジェーン・スー
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2021/12/15
  • メディア: Kindle版


重ねる歳はあるけれど、明けない夜はないはずだ。
CREA連載「●●と▲▲と私」に加え、SNSで話題沸騰の推しエッセイ「ラブレター・フロム・ヘル、或いは天国で寝言。」、
楽しいお買い物についての書きおろしも収録。
いまの自分の「ちょうどいい」を見つけよう、最新エッセイ集!
化粧が写真に写らない/なぜ私のパンツは外に干せないのか/「疲れてる?」って聞かないで/ていねいな暮らしオブセッション2021/「四十代になれば仕事も落ち着く」は幻想です/「愛される」は愛したあとについてくる、らしいよ/#今日の鍛錬/私はちょっと怒っているんですよ/「おかしい」言うことの難しさよ /やりたいか、やりたくないかの二択です/中年の楽しいお買い物/ラブレター・フロム・ヘル、或いは天国で寝言。…ほか50エッセイ収録!

違和感は覚えていた。
昔ほどスーさんのエッセイが面白くない。
何か引っかかるものを感じる。

なのでちょっと辛かった。
「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」で、
鮮やかに女子の自意識を切ってくれた爽快感、
それは年を追うごとになくなり。
おそらく彼女と自分の立ち位置が、
その間に大きく乖離してしまったことが原因なのだろう。
もともと持っていた才能は言うに及ばないが、
とにかく彼女はいろいろな意味で一般人とはちょっと違う、
ある意味特別な場所に引き上げられた。
彼女自身は何も変わっていないというだろうが、
エッセイの中に登場する世界が、
そもそも変わっていることに気づいていないのか。

おそらくもう彼女の著書を読むことはないだろう。
なぜならもはや「爽快感」がなくて、
読んでいるうちに自分とは格が違う、
もやもやと嫉妬のような感情が残るから。

 
クラスの違う読者を切り捨てられて、
「ひとまず上出来」なのかもしれない。

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