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「名著の話 僕とカフカのひきこもり」 [本]


名著の話 僕とカフカのひきこもり (角川学芸出版単行本)

名著の話 僕とカフカのひきこもり (角川学芸出版単行本)

  • 作者: 伊集院 光
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/02/16
  • メディア: Kindle版


NHK「100分de名著」で出会った約100冊より、伊集院光が、心に刺さった3冊を厳選。名著をよく知る3人と再会し、時間無制限で新たに徹底トークを繰り広げる、100分de語りきれない名著対談!

■川島隆(京都大学准教授)と語る、カフカ『変身』
 ──“虫体質な僕ら”の観察日記

■石井正己(東京学芸大学教授)と語る、柳田国男『遠野物語』
 ──おもしろかなしい、くさしょっぱい話たち

■若松英輔(批評家、随筆家)と語る、神谷美恵子『生きがいについて』
 ──人生の締め切りを感じたとき出会う本

このタイミングで上梓されて、
番組が終わるのが惜しいように、
読み終わるのが惜しくて、
少しずつ少しずつ読み進めた。

「100分de名著」を観ていていつも思うのが、
伊集院さんの素直な言葉の真っ直ぐに突き刺さる様。
それはこの本で知ったのだけれど、
事前に彼が本を読まないで番組に臨むという立場、
その役割を素直に果たしているのだと言うこと。
だから高校時代に引きこもりになって、
そのまま高校を中退して、
好きだった落語の世界に身を投じた自分を、
「変身」のグレゴール・ザムザに重ねる。
家族の対応をやはり自分の家族に重ねる。
そもそも伊集院さんのラジオを聴いている人は知っているが、
彼は今でもかなり精神的に波のある人だ。
年齢を重ねたからと言ってそれが変わるわけじゃない。
ただ自分もそうなのだが、
経験上自分を誤魔化す術を何とか身につけるだけ。
その伊集院さんの生の精神状態というか、
自分で表現できることを話にしたラジオを聴きながら、
リスナーはある意味安心感を得て笑いを得る。
「自分より面白いのがコワイから人のラジオは聴かない」
ラジオの覇王とまで言われる人がである。
それほどまでに繊細で物事を真面目にとらえ、
深く考えすぎてしまう人なのだ。

だからこそその真摯な姿勢と、
リスナーに面白いものを提供しようとする気持ち、
それが痛いほどわかる。
伊集院さんのラジオを聴いている人は、
皆それを感じ取っているに違いない。

だからこの本での対談を読みながら、
伊集院さんが文学に真面目に取り組んで、
自分の中で落としていく様は胸が熱くなるほどである。
私たちと変わらない立場でものを感じ取り、
疑問や思ったことを口にしてくれる。
そしてそれにまた真剣に答える先生たち。
質の良い大学の授業や講義を聴いているかのようで、
深くて気持ちが揺さぶられてその後落ち着く、
そして視界が開けるような時間である。

伊集院さんは自分を偽らない。
偽ろうとしたときは自ら申告して止める。
だからリスナーは信頼を寄せる。
語らない言葉の陰にあるものを読み取ろうとする。
それはこれからも変わらない。

引きこもって自分の弱さもわかっていて、
その時のつらさもわかっているから、
ここまで深く読み解くことができる。
その真面目さと面白さが比例する人。
だからこそ譲れないこともあるはず。

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