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舞台 「パラサイト」 [WOWOW]

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はい、おわかりの通り、
ポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」がベース。
というか、設定は日本に変更しているけれど、
基本的なところは変わらないまま。
何より出演者の顔ぶれ。
古田新太、江口のりこ、伊藤沙莉、宮沢氷魚。
元のストーリーは折り紙付きに加え、
このメンツの舞台となったら観るしかない。
と言ってもWOWOWの放送なんだけど。

いきなり関西弁。
お父ちゃんは家で靴を縫っている靴職人。
「ああ、長田地区なんだな。
 ああ、○○○○○という裏設定なんだな」
と言うことは、
高台の家は芦屋のお屋敷。
まぁ関西に舞台を設定したらエグイエグイ。
何しろ何の意識もなく天然で金持ち、
逆に金持ちの嫌らしさがなかった家族が、
いきなり不動産の成金家族のようにイヤらしい。
そうなると天然で差別していたことが台無し。
古田新太はいつも通りの板についた演技で、
相変わらずの安定感。
だけどソン・ガンホのしみったれているけど、
どこかシュッとして格好良さがにじみ出るところはない。
まぁそれは持ち味。
兄と妹という設定になっているため、
主導権を握るのは宮沢氷魚。
あのクールで肝が据わった格好良かったパク・ソダム、
伊藤沙莉では少々可愛すぎた。
あと宮沢氷魚がそれほど頭が切れる風に見えない。
そこが致命的。
ただし。
江口のりこの肝っ玉かあさんぶりがすごい。
全く体格も違うし雰囲気も違うのに、
より一層の落ち着きと図太さで一家の真ん中にいる。

ケチをつけてもしょうがないし、
そもそも日本の設定にしたところで、
半地下の家なんてないんだから、
そりゃ長田地区と芦屋は格好の場所。
そしてそこにやってくる阪神淡路大震災。
水害を大震災に置き換える。
水が上から下へ流れるという意味、
これが台無しなんだな。
もっとも舞台じゃ難しいだろうけど。

と言うことで、
そこそこ面白いです。
キムラ緑子とか他にも芸達者が多いし。
ものすごく贅沢な配役の舞台。
ただやっぱり翻案っていうのは難しい。
「リスペクトーーー!」もなかったし。
まぁヤミ金からの借金で身を隠しているからしょうがない。
深読みのしすぎなんだろうけど、
芦屋のお屋敷と長田地区の靴職人、
そりゃ接点ないよね。
なんで長田地区があんなに酷い火災になったのか、
そもそもどういう成り立ちの町なのか、
いろいろ考えれば考えるほど、
あの一家が暢気にパラサイトできる方がおかしいと思える。

微妙な設定って難しい。
多分そこを読んで嫌な気分になる人もいるだろうな。
あ、あと主人公一家の名字。
そこにも含みがあるよね。

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「瞳を閉じて」 [映画]



<STORY>
映画『別れのまなざし』の撮影中に主演俳優フリオ・アレナスが失踪した。 それから22年、当時の映画監督でありフリオの親友でもあったミゲルはかつての人気俳優失踪事件の謎を追うTV番組から証言者として出演依頼を受ける。取材に協力するミゲルは次第にフリオと過ごした青春時代を、そして自らの半生を追想する。そして番組終了後、一通の思わぬ情報が寄せられた。―― 「フリオによく似た男が海辺の施設にいる。」

芸術家やクリエイターの鼻っ柱をへし折ると、
こじれてとんでもない事になる。
素直に観れば、
「ああ、これだけのものを作るのに、 
 これだけの膨大な時間がかかったのだ」と思うし、
「エル・スール」の時間を巡る騒動を思うと、
「ああ、その無念をこうやって設定を変えて、
 かつとんでもない恩恵をもたらした女性を登場させて、 
 ここまでの物語を作り上げるまでに何十年?」と思う。
ちなみに私は後者。

「エル・スール」には続きがあった。
それを足すと合計3時間の上映時間になる。
それをプロデューサーが阻止したがために、
この物語を紡ぐのに40年かかったと言うわけだ。
行方不明になった俳優を探すのも、
その娘にアナ・トレントを廃したのも、
全ては監督の思いの丈を表現するためだったのだろう。
おかげでこの映画もまた3時間弱だ。
もう最近は2時間半を超える映画にビックリもしないが。

劇中劇である映画から始まる。
だからしばらくは掴みきれない部分があるが、
それでもちゃんと説明が字幕であるので、
とてもわかりやすい。
「オッペンハイマー」の逆効果がここでものを言う。
「ああ、映画ってこういうのが普通だよな」と。
美しい海辺の老人施設に身を寄せていた、
記憶喪失の一人の男。
それが失踪した俳優ではないかという情報。
彼の親友である当時の監督である主人公は、
今も彼の娘と連絡を取り、
彼が失踪した謎を追っている。
だから当然会いに行って確認する。
会えば記憶が戻らないかという淡い期待は裏切られ。
なぜだか彼は現状を受入ながら、
高齢者施設の修繕係として働いて住まわせてもらっている。
その彼と一緒に暮らしながら、
主人公の心にも変化が出てきて、
彼の娘を呼び寄せて引き合わせる。
そして彼が思いついた最後の方法は・・・。 
 
「彼の目を見ればわかる」

この言葉が肝になる。
そしてこれだけの人間関係を、
主人公の思いも含めて、
様々な関係の愛情や抱えている思いが、
様々に絡み合って、
或いは一方通行で、
切なくもあり哀しくもある。
そして最後の手段に出た主人公。
正直ひねくれた私は、
「あーあ、ここでもニュー・シネマ・パラダイスかよ」って一瞬思った。
「エンドロールのつづき」「バビロン」と、
映画にまつわる映画はどうしてもそこに帰結するので、
「安易な結末を」と思ったことも確か。

ところがどっこい。 
思いきりそれは裏切られるし、
さすが30年の思いの丈を振り切って、
思いっきり自分の好きなようにかはともかく、
納得のいくように頑張っただけある。
正直やられた。
ラストシーンが脳裏から消えない。
映画好きのわかったような予想を後悔した。
2時間49分一度も尿意なし。
途中多少意識は途切れたwが、
言葉と映像が静かに語りかけてくる時間、
良いことも悪いことも、
様々な登場人物も、
全てが含まれているあのラストカット。
出てきたのは涙ではなく深い吐息。

こう言う世界。
おそらくは唯一無二。
ビクトル・エリセ監督の真骨頂発揮。
ちょっと醒めた目で見に行ったけど、
やっぱり最後は違う目になった。

爆発力はないけれど、
静かに心を満たしていく。
これこそ映画の醍醐味。

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