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「ジュリアン」 [Amazon Prime Video]




ジュリアン(字幕版)

ジュリアン(字幕版)

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2019/11/13
  • メディア: Prime Video


両親が離婚し母と姉と暮らすことになった11歳の少年ジュリアン。離婚調整の取り決めで共同親権となり、隔週の週末ごとに別れた父アントワーヌと過ごすことに。母ミリアムは頑なに父アントワーヌに会おうとせず、電話番号も教えない。アントワーヌは共同親権を盾にジュリアンを通じて母の連絡先を突き止めようとする。ジュリアンは母を守るために必死で父に嘘をつき続けるが、アントワーヌの不満は溜まり続け、ある日ついに爆発する。

最悪の採決をしてしまった、
「共同親権」の恐ろしさ。

冒頭共同親権を争うシーン。
日本でもフランスでも変わらない。
いや、世界中で変わらないのだろう。
収入の過多が俎上に乗る。
父親は訴える。
「息子には父親が必要だ」
けれど息子の供述が読み上げられる。
「あの男が来るとコワイ。 
 あの男が母親を殴る。」

しかし次のシーンに映るのは、
息子を迎えに来た父親のならすクラクション。

なぜ人間というのは、
失うとなると執着心が強まるのだろう。
自分が投げ出したオモチャを、
他の子どもが遊び始めると欲しくなる。
いらないと思っていたのに、
いざ捨てるとなると、
誰かにもらわれるとなると惜しくなる。
そこに愛情などないのに。
愛情があると錯覚しているだけなのに。
そこにあるのは愛情ではなく、
ただの執着心なのに。

ある意味、
この映画では男がバカで、
衝動的に凶行を止められなくなり、
おそらくはこの先そのことが幸いとなる。
でもそこまでの時間、
妻や子供たちは恐怖の時間を過ごす。
あの男が呼ぶ「ジュリアン」という名前、
母親が呼ぶ「ジュリアン」という名前、
その意味はおそらく全く違う意味だと思った。
あの男にとって「ジュリアン」は妻を繋ぎ止める道具、
妻の今を知るための情報員、
息子として呼んでいる様子も可愛がっている様子もない。

そう、この男はバカで良かった。
でももっと陰湿で狡猾な男もいる。
もちろん男女逆のパターンもある。
狡猾に証拠を残さないように、
相手を追い詰めていくことだってできる。
暴力を用いなくても相手にダメージを与えることはできる。
その方が悪質だしダメージも大きい。
そうして相手が弱ったところで頽れるところを待ち構える。

日本も共同親権を採択した。
これによってこの映画のように、
子どもと接見することで、
現在の住所や職場などがばれることもある。
円満に別れた二人ならともかく、
様々な事情で知られてはならない情報を抱えることが多い。
だからこそ共同親権を簡単に許すことは危険。



宗主国がそうだからと言って、
この国までもが、
なぜ100年前に帰ろうとするのか?
確実にこの国は、
明治の法律と権力を目指している。
やがて結婚した女は無能力者となるのだ。
そう思いながら毎日「虎に翼」を見て、
「はて?」と首をかしげながら、
はらわたが煮えくり返る思いを抱えている。

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「実録 マリウポリの20日間」 [NHK-BS1]



第96回アカデミー賞 長編ドキュメンタリー賞受賞
4月26日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか 全国緊急公開決定!
2022年2月、ロシアがウクライナ東部マリウポリへ侵攻開始。
戦火に晒された人々の惨状をAP通信取材班が命がけで撮影を敢行し、
決死の脱出劇の末、世界へと発信された奇跡の記録映像

こうした戦場のドキュメンタリーにはつきものだが、
こんなことが起こらなければ、
いくらすぐれたドキュメンタリーであっても、
この映画は成立しなかったし、
作られることもなかったのだ。
本来こんなドキュメンタリーが作られることは、
人類として恥ずかしいことなのである。

アカデミー長編ドキュメンタリー賞受賞を受けて、
NHK-BS1が再放送をしてくれた。
前後編に別れて、
ナレーションは吹き替えられているが、
それでも電波で観られることの価値は絶大である。
BSの世界のドキュメンタリーを見続けるのは、
こういう良質のドキュメンタリーを提供してくれるから。
何度でも言うが、
NHK受信料は、
彼らが作るか買うかに関わらず、
ドキュメンタリーの放送を観るだけで充分ペイすると思っている。

余りにも酷い。
確かに報道では知っていた。
医療機関、それも産科専門病院を狙い撃ちする。
臨月の妊産婦と胎児が死んでいく。
それはもう無残で観ていられない。
ロシアの戦車に刻まれた「Z」の文字。
これが現れる前は未来への希望に満ちあふれていたであろう、
妊産婦と家族たち死んでいくのだ。
助かってもうちひしがれて絶望の表情が写る。
その病院から別の総合病院に患者が運ばれるが、
彼らは外科的な負傷を負っていて、
その上で分娩に臨む。
病院側は産科がないから大変だ。

希望から絶望にたたき落とす攻撃。

なんという残酷で闘志を挫く攻撃。
 
これがゲームなら見事と言うしかない。
マリウポリの町が日々閑散として、
日々破壊されていく様は映画のよう作り物にさえ見える。
でもこれは現実だ。
最終的にマリウポリは廃墟となるのだが、
その様子を如実に映し出すカメラの残酷さ。
けれどマリウポリの市民も兵士も臨んだ。
「この映像を世界に公開してくれ。 
 これがロシアのやり方だということを伝えてくれ」
その声に押されて助けられて、
APの取材班は何とかマリウポリからの脱出に成功する。

この映像が公開されても、
ロシアは「フェイク映像だ。ウクライナの過激派がやっている」
そう言い張って譲らない。

APと言う通信社がフェイクを公開するはずもなく、
ロシアの言い分を誰も信じることはないだろう。
それでもプーチンも即金も譲らない。
そして「これは正義の戦争だ」と言い張る。



ウクライナとロシアの関係は根深い。
ロシアの支配下でウクライナがどんな陰惨な目に遭ってきたか。
ほんの一部しか知らないのかもしれないが、
だからこそウクライナは降伏しないのだと思っている。
彼らはロシアに組み入れられたら、
ほぼナワリヌイと同じ運命が待っていると思って良いだろう。
市民もどんな仕打ちが待ち受けているか。



でもウクライナ侵攻から2年以上経って、
日本人の関心もかなり薄れているだろう。
今はガザの方が関心が高いのかもしれない。
でもどちらも現在進行形だ。
あれもこれもそれも、
関心が薄くなっても現在進行形。
AP通信社は20日間だったけれど、
あの町陥落するまで兵士は粘り続けた。
これは作り物ではない。
フェイクでもない。
だから私たちは観ておく必要がある。
現実の戦争の痛みと哀しみを知っておく必要がある。
「戦争ができる国にする」
そういう時代だからこそ本当の戦争を観るべきだ。
「戦争をできない国」は恥ずかしくも何ともない。
戦争なんてしないにこしたことはない。
生身の人間が傷ついて血を流し、
その命の炎が消える瞬間を、
ボディバッグを埋めていく作業のつらさ苦しさ、
そういう現実を思い知るべきだ。

明日は我が身なのだから。 

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