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「女帝 小池百合子」 [電子書籍]


女帝 小池百合子 (文春e-book)

女帝 小池百合子 (文春e-book)

  • 作者: 石井 妙子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2020/05/29
  • メディア: Kindle版


コロナに脅かされる首都・東京の命運を担う政治家・小池百合子。
女性初の都知事であり、次の総理候補との呼び声も高い。
しかし、われわれは、彼女のことをどれだけ知っているのだろうか。
「芦屋令嬢」育ち、謎多きカイロ時代、キャスターから政治の道へーー
常に「風」を巻き起こしながら、権力の頂点を目指す彼女。
今まで明かされることのなかったその数奇な半生を、
四年の歳月を費やした綿密な取材のもと描き切る。

読むつもりはなかった。
著者がラジオにゲスト出演して、
淡々と彼女の父親の顔を語った時に、
「父親そっくりの大風呂敷なほら吹きだな」 
そう思ったことがすべてじゃないかと感じたから。
何より私は都民ではないし、
こういう時に「都民でもないくせに」という人間がいることも承知で、
都知事選に何を言うつもりもなければ、
小池百合子という都知事に関して評価することも避けてきた。

しかし「バラいろダンディ」で水道橋博士がこの本を薦めてきた。
次の瞬間私は電子書籍を購入していた。
何が心をとらえたのかと言えば、
水道橋博士の眼力を信用しているからとしか言えない。
都民でもないし都知事選に関係もないのだが、
それでも「小池百合子」という政治家を知らなければならないと思った。

彼女の人生には謎が多かった。
そもそも学歴についても疑問はあった。
そして彼女の政治理念についても懐疑的、
というよりはそんなものが存在するのか疑問だった。

その理由がすべてとは言わないが、
この本に書かれていることと証言されていることが真実ならば、
充分すぎるほどに納得がいく。
「山師」と言ってもいいような父親の生き方、
見栄と虚飾に満ちた成長過程、
「芦屋の令嬢」の真実、
父親の生き方と仕事に影響された人生の選択、
そして「ジジ転がし」と若くして呼ばれたその手口、
そのすべてが彼女を形成し、
そのすべてが彼女の気を見るに敏と言えば聞こえはいいが、
自らの利益になるところへと簡単に鞍替えする芯のなさにつながる。

私は個人的に彼女に嫌悪の情を抱いたこともないが、
逆に好感を持ったこともない。
自分にとっては無縁の存在であり、
政治をやっている女ではあるが、
「政治家」として認めるには余りに浅い人間であり、
彼女に特別の関心を抱かなかった。
だからこの本も最初は読もうと思わなかった。

しかし読み終わって思うことは、
この時期に文芸春秋社という出版社が、
これだけの本を出版するということはそれなりの覚悟と裏付けがあり、
それを彼女に真っ向からぶつけてきたのは、
ここに書かれたことはほぼ真実なのだろうということ。
だとしたら彼女は実に多くの国民を都民を、
実にしたたかに実に悪気なくだましてきたことになる。
私が彼女に政治家として人間として関心を持てなかったのも、
それはとりもなおさず、
彼女の人生の軌跡に虚飾を感じてきたからなのかもしれない。
彼女は自分をどう思っているか知らないが、
父親に実によく似た「山師」的生き方をしてきて、
虚飾にまみれた過去が都合よく本人の弁で塗り替えられ、
都合よく人のやり方を乗っ取って、
自分の手柄とスタイルに見せかけることをいとわない、
そんな彼女の虚飾の祭典に付き合わされた国民、都民の悲劇は計り知れない。

都民みんなが読むべきとは言わない。
彼女のそうした過去を疑っている人は多いし、
彼女を魅力的だと思っている人も多い。
それぞれの価値観で好きにすればいい。
しかし「小池百合子」の人生というより、
ある意味フィクションだとしても面白すぎるこのストーリーは、
一度読みだしたらやめられない。
この際フィクションでもノンフィクションでもどうでもよくなる。
そのくらいにここに描かれた人生は奇想天外で、
想像を超えた嘘と仕掛けと茶番劇でいっぱいなのである。

この本を信じるか否かは読んだ人次第。
多かれ少なかれ政治家の人生など、
手垢のついた黒い部分がつきものだから。
だとしても人間としての小池百合子がわからなくなる。
マシンだとは言わないが、
ここに描かれた小池百合子の自らの野心のために、
ただひたすらに突っ走る姿に人間味を感じない。
それが私には一番怖かった。
家族でさえも自分の道具。

シェイクスピアでもこんな人物造詣ができただろうか?

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