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「わかりやすさの罪」 [電子書籍]


わかりやすさの罪

わかりやすさの罪

  • 作者: 武田 砂鉄
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2020/07/07
  • メディア: Kindle版


極端な「わかりやすさ」の追求の果てに、日本人の思考、日本社会に今、何が起きているのか。損なわれたものとは。政治家の発言や「すぐにわかる!」番組、「泣ける」映画、一瞬でノウハウを伝えたがるビジネス書などを挙げながら論じる。

書店にあまり行かなくなって久しいのだが、
それでもネット書店のおすすめだけでもわかることはある。
「簡単に結論を求める」本が人気だということである。
この本でも書かれているが、
本を読まずに要点だけを抜き出した内容を提供してくれる本やサイト、
或いは物事の構造を簡略化してわかった気にさせる本やサイト。
「わかった気にさせる」と書いたのは、
そこで簡略化されたり要約された内容が、
必ずしもことの本質や著者の意図に迫っているとは限らないから。
忙しい現代においてショートカットは当たり前のことなのだろうが、
物事の本質を自分で求めない状態で結論だけ知って、
それでわかった気になることは果たしていいことなのか?

私は砂鉄さんのいい加減のしつこさとこだわりが好きである。
ともすればあっという間に忘れていく世の中で、
4か月前の出来事を掘り返す連載や、
「言い続ける」という姿勢を貫く砂鉄さんは、
「大事なことは追及し続ける」という本質を忘れない。
日本人は自分に直接関係ないと忘れる。
いや、忘れたことにするのが楽なのだろう。
「思考停止」こそ一番楽な状態だから。
その意味で本書は一石を投じるどころか、
めちゃくちゃな数の石が投じられる。
「わかりやすさ」のはらむ危うさや罪深さ、
それに慣れることによって人はどうなってしまうのか。
その問いかけに目からうろこがボロボロと落ち続けてしまった。

「わかりやすさの罪」について今ものすごく感じるのは、
現在職場で働いている女性の働く姿勢に対する疑念があったからかもしれない。
彼女はいわゆるパートである。
しかしそこそこの時間は働いているしもうすぐ1年になる。
ルーティンの単純作業、マニュアルのあるような仕事は得意だ。
しかし同僚と共に感じている物足りなさがある。
何かを質問するにしていも何をするにしても、
そこに自分の意志や思考による動機づけを感じないのだ。
わかりにくいかもしれない。
単純に言えば「答え」だけを求めていて、
その答えの方程式は理解するが方程式を導く思考は求めない。
こう表現するのがいいのかもしれない。
つまり「わかりやすい結論」に飛びついて、
ケースバイケース、臨機応変に結びつく根本の要点を求めていない。
パートだからそれでいいのかもしれない。
しかしそれは本来の「仕事」とは違う気がするのだ。
彼女にはそれが通じない。
今そこで私と同僚は悩んでいる。

そこで本書を読むことによって、
「わかりやすさの罪」がそこにあると感じ、
ならばやはりしつこく粘り強く掘り下げること、
嫌がられるくらいに嫌われるくらいに問いかけること、
それが彼女への対処法なのではないかと思った。
もっとも相手がそれを拒否すればやめるだろうし、
ちょっと突き詰めるとすぐに涙ぐむような人間なので、
そのあたりの耐性に乏しいということもわかったので、
それこそ匙加減が難しいと思う。
しかしやはり現代人はショートカットを求めすぎていると思うのだ。
だからNHKのニュースやワイドショーで切り取られた話題で、
ことの本質も枝葉末節もわかった気になってしまうのだろう。
その見本のような人間を目の当たりにして、
さらにタイミングよく本書を読んだことによって、
自分自身の意識改革をしていこうと思う。

粘着質な人間は嫌いだが、
砂鉄さんのしつこさは嫌いじゃない。
この違いは何か、
それがすべて本書に表れていると思う。

とかく過程をすっ飛ばして結論に飛びつきやすい人、
そういう人こそ本書を読むべきである。

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