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「東京オリンピック2017 (都営霞ヶ丘アパート)」 [本]


東京オリンピック2017 (都営霞ヶ丘アパート)

東京オリンピック2017 (都営霞ヶ丘アパート)

  • 出版社/メーカー: 左右社
  • 発売日: 2021/12/25
  • メディア: 単行本


《映画公式冊子》東京五輪を理由に終の住処を失った住人たちの記録
稲葉剛、ヴィヴィアン佐藤、ジェーン・スー、七尾旅人 推薦
武田砂鉄による書き下ろしエッセイを加えた完全保存版
1964年の東京オリンピックに伴う開発により、国立競技場近くに建設された「都営霞ヶ丘アパート」。
住民には高齢者が多く、このアパートを終の住処として生活を営んでいた。
しかし「東京オリンピック2020」を理由にアパートの取り壊しが決定。2012年7月、住民に「移転のお願い」が届く──
華やかなオリンピックの影で奪われた、ひとりひとりの生活。
詳細な資料とともに記録する、個々人の小さな歴史。

「都市計画」というものは、
大きな完成予想図などを掲げて理想を謳う。
そこに描かれた架空の町はキラキラとしていて、
街を闊歩する人たちは活気にあふれている。
しかしそれはあくまでも「未来予想図」であって、
現実にそうなるとは限らない。

東京オリンピックの誘致から開催が決まって、
わたしもまた多くの人たちと同様、
その開催を喜ばしく思わず、
ウソに固められた誘致のためのスピーチを苦々しく思い、
最後まで反対の声を上げようと考えていた。
そうこうするうちに、
国立競技場の建て替えが発表された。
「いやいや、既存の施設を利用するといっていたではないか!」
日本中からそんな突込みが聞こえるさなか、
海外の建築家に依頼した新国立競技場の完成予想図は、
なかなかに物議をかもすものとなる。
それと同時に新国立競技場の建て替えに乗じて、
周辺の再開発をすることになり、
かつオリンピックとは何の関係もない団体のビルが建つことを知る。
もう完全に便乗ビジネスだった。
けれどあっという間にかつての国立競技場は解体される。
その後いろいろな問題があって、
最終的に新国立競技場の姿は当初の予定とは違うものになる。
ただ周辺の再開発に伴う住民の移動を伴う建築物の解体は変更されなかった。

映画は未見なのだが、
この話は折に触れて報道されたり、
ドキュメンタリー番組で扱われて、
かなりのことを知っていたと思っていた。
しかしこの本を読んで知ったのは、
都側の一方的な通告と移転先の提示。
多くの高齢者が暮らすそのアパートから離れることは、
高齢者にとっては大きな負担であり、
かつ暮しを一から変えることになり非常に大変な話だ。
それは予想がついていたが、
立ち退きを迫る側はそんな事情は勘案しない。
もちろん都職員の担当者にはそういうことを懸念する人もいただろうが、
あくまでも都側の姿勢にはそんな温情は見えない。
行政のやることに温情を挟んでいたら進まない。
それは事実だろうが、
1964年のオリンピックによって移転を余儀なくされた人たちが、
またもオリンピックによって移転を強要される。
50年以上も経過したのだ。
もちろんそれだけ人間も歳をとる。
それでも期日までには退去しなければならない。

この本にはその計画から退去通告、移転希望先の記載された書類など、
多くの資料が詰まっている。
これもまた日本の歴史の一部として保存しておくべきだし、
美しい都会の中の杜を失った記録として忘れてはならない。


日本は何かというと公共工事で景気回復をしたがる。
それは好景気でいけいけどんどんだった時代、
高度成長期の名残であり、
今もまだそれによって多少は景気が良くなる業界もある。
しかしそれは限定的であり、
あの時代のように日雇い労働者を山ほど雇って建設作業ができる時代ではない。
それでも官僚と政治家の考えることは変わらない。
その犠牲になるのはいつも弱者である国民だ。

この記録もその一つだ。

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