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「君たちはなぜ、怒らないのか: 父・大島渚と50の言葉」 [本]


君たちはなぜ、怒らないのか: 父・大島渚と50の言葉

君たちはなぜ、怒らないのか: 父・大島渚と50の言葉

  • 出版社/メーカー: 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
  • 発売日: 2014/05/01
  • メディア: 単行本


重松清氏、推薦!
よく怒る。矛盾だらけの、甘えんぼ。そんな親父の人生を、二人の息子はたどっていく。それは息子から親父への、もう読んでもらえない、長い手紙なのだ。
世界的な巨匠映画監督にして、討論番組での自由で過激な論客としても知られた大島渚。その2人の息子が、父の遺した言葉から、その知られざる素顔に迫る書き下ろしエッセイ。
映画監督の創作秘話としても、教育論としても、普遍的な家族を巡る物語としてもユニークで面白く、生きる勇気が湧いてくる好著。

シネコヤの本棚で見つけて、
読み始めた途端に思った。
「これは腰を落ち着けて家で読みたい!」 
実は絶版なので、
そこから入手するまでに多少の時間を必要とした。

読み始めたら止まらない。
あの大島渚監督の素顔が語られるし、
とにかく頭に血が上りやすい、
そしてそのくせインテリで確固たる自分の哲学があり、
自分の撮る映画にも若いころから一家言持つ。
なのに家ではとても甘えん坊で、
家族を大切にする父親の顔をのぞかせる。
かと思えば、
「本番映画」に挑戦して「ポルノ監督」と呼ばれる。

二人の息子にとって父親は、
愛すべき父親であるのと同時に、
様々な困惑や混乱を巻き起こす存在であったことだろう。
「なぜ君は総理大臣になれないのか」で注目を集めて大島新監督。
彼は多感な思春期に嫌な思いをたくさんしていたという。
しかし彼の顔や表情を観ていると、
まるで大島監督に生き写しだと思う瞬間があり、
その作品を見ると、
やはり大島監督譲りの頑固さのようなものを感じる。
兄の大島武氏は実は私と同い年。
倒れて以降の大島監督は、
よく夫人と藤沢市民病院に通院していたと聞く。
縁があるわけではないが、
この親子が暮らした鵠沼海岸という土地、
そこもまた彼らに影響を及ぼしたであろうと思われ、
決して大島渚マニアではない私でも、
この親子の話は読んでみたいと思わされるのだった。

読めば読むほど面白いと思うのは、
作品と比較して、
大島監督という人が非常に情にもろくて、
特に家族という存在に対してはホームドラマというか、
ヌーベルバーグどころか思い切り小津安二郎っぽい世界なのだ。
外では激怒する男として知られた監督も、
家では実は大甘な父親で愛妻家、
本当に愛すべき父親だったのだ。
五社協定があったころの映画界で仕事をはじめ、
独立して苦労をしながらも、
妻の絶対的な支えを得て、
やがて世界が注目する監督になるまで、
家族としての苦労も波炊いてではなかっただろうが、
監督自身もまた苦労を重ねていたし、
その姿を家族は目の当たりにしながら、
或いは見せない部分を想像しながら、
父親の仕事への理解と愛情を積み重ねる。

もちろん矛盾しているところもある。
それは人間だから当然だ。
しかし息子たちはその矛盾すら、
「こういう人だから」と理解しているし、
理解するために考えを巡らせる。
理不尽の怒りをぶつけるだけの父親なら、
決して息子たちもそこまで考えを巡らせることはないだろうし、
やはり愛すべき存在であるからこそ、
家族はその矛盾も愛したのだ。

一時全く中古市場になかったのだが、
最近でまわりはじめたようなので、
もし興味があれば一読することをお勧めする。
激昂する姿は覚えていても、
意外とその映画を観たことがない人もいるだろう。
もはや表舞台から消えて長くなり、
知らない人も多くなっただろう。
大島新監督の作品は知っていても。
ならば彼のドキュメンタリーがなぜ人を引き付けるのか、
なぜ問題提起をしてくれて考えさえるのか、
その原点ともなるであろう父親としての存在、
その父親を語る二人の息子たちの言葉を読むことは、
大島新監督の作品の根底にあるものを知ることにもなる。

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