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「マッチ工場の少女」 [Amazon Prime Video]



マッチ工場で働く一人の孤独な少女が、自分を裏切った男に復讐するまでを描く…。フィンランドの田舎町のマッチ工場で働く少女イリス。彼女は稼いだわずかな金で母と義父を養っていた。ある日、もらったばかりの給料で衝動的にドレスを買ってしまう。怒った義父に殴られ、母に返金を命じられたイリスは、とうとう家を飛び出し、買ったドレスを着てディスコへ向かう。そこで出会った男性と一夜を共にするが、イリスは彼にも裏切られ…。

たった1時間8分。
でも冒頭の様子から、
すでに主人公の薄倖さがうかがえてしまう。
しかし現代版マッチ売りの少女は、
凍えて死ぬようなことはない。
最小の台詞と宰相の感情表現と演技。
そして最小の時間で彼女の心の移ろいと、
そこから芽生えた復讐劇を描ききる。

なんの良い訳もないところも含めて、
こんな映画を作るカウリスマキには脱帽だ。
これをコメディと評して良いのかわからないし、
普通の家庭や男女間ならば、
こんなことになる前にいくらでも解決法や、
コミュニケーションの取り方はあると思われるのに、
少女が発する感情の叫びを誰も聞かない。

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2023年「未見だったらオススメです」映画。 [映画]

今年スクリーンで観た映画90本。
その他に配信で観た新作もあるから、
面倒臭いのでもう本数は数えない。 
そしてバラエティに富みすぎているし、
映画に順位をつけるなんざぁ愚の骨頂。

と言うわけで、
取りあえず「未見だったらオススメです」映画にした。
あくまでも私の個人的主観なので、
もし趣味に合わなくても責任は持ちません。

「市子」
日本でのある法律故に全ての罪を背負った市子。 
彼女はこの日本の片手落ちの制度の犠牲者。

「首」:
戦国武将も人の子。 
惚れた腫れたで歴史は動く。

「福田村事件」
間違いは認めるべし。

「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」
真っ向から負の歴史と向かい合う映画を作れること。
それを3時間半の作品に仕上げてしまうこと。
全てが桁違いで全てがすごすぎて全てが酷すぎる。

「ハント」
これまた過去に真っ向から向かい合う映画。
特に韓国のこの手のポリティカルスリラーは切れ味抜群。
イ・ジョンジェの監督としての力と仲閒の後押しが最高に格好いい。

「バービー」
日本の政治家や官僚が問題にしているLGBTQとか、
ダイバーシティとかは無視してイイからこの映画を観ろ!
何でも良いからこの映画を観ろ! 

「SHE SAID」 
アカデミー賞からガン無視を喰らう。
しかしこの映画もまた映画界の負の歴史を真っ向から描く。
そしてその問題に向かい合う人たちの心を映し出す。

「パリ タクシー」 
90歳を超えた婦人を乗せたタクシー。
このご婦人がとんでもない経歴の持ち主で、
やさぐれていたタクシー運転手の心も溶かしていく。

ドキュメンタリーは個人的好みが強いので省いた。

今年は金を払って失敗したと思った映画は以下。
「リボルバー・リリー」
「クリード 過去の逆襲」
「非常宣言」
大作の宣伝は簡単に乗っちゃダメ。



去年は圧倒的に、
「ベルファスト」と「カモン カモン」が二強だったのだけど、
今年はそれほどまでに強い作品はなかった。
敢えて言うなら「ハント」の面白さかな。


配信も含めて良いのなら、
「Saltburn」。
これが今年圧倒的に持って行かれた1本。

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「荒野の用心棒」 [ムービープラス]




荒野の用心棒 完全版 製作50周年Blu-rayコレクターズ・エディション

荒野の用心棒 完全版 製作50周年Blu-rayコレクターズ・エディション

  • 出版社/メーカー: NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
  • 発売日: 2014/10/22
  • メディア: Blu-ray



これが今現在配信では観られない。
自分の環境では観られない。
と言ってお高いBlu-rayを購入するのも躊躇。

そうしたらムービープラスで疱瘡してくれた。
レンタル落ちDVDなんかより遙かに音質も画質も良いので、
これはもう永久保存版。

この映画の冒頭、
映像と音楽で釘付けになった人が多いのも納得。
モリコーネにとっては生活のための作曲。
それも予算がないからオーケストラは使えない。
そこで口笛、鞭の音、エレキギター、トランペットと、
それまでの映画音楽にはなかった音が登場。
その斬新さとアニメーションがスパゲッティ・ウエスタンの行き先を決めた。
後年この映画を観て、
セルジオ・レオーネとモリコーネは「最低だ」と笑ったそうだが、
今観れば確かに他愛もなく、
雑な作りも目立つ映画ではあるが、
何といってもセルジオ・レオーネとモリコーネの職人技、
どちらも今とは比較できないとはいえ、
やはり多くの人の心を惹きつけただけはある。

不遇の時代をこれで食いつないだイーストウッド。
時代の徒花とも言えるスパゲッティ・ウェスタン。
それはまるでヤクザ映画で食いつないだ東映と、
その所属俳優と監督たちのようではないか。 

「生きる」
「映画を作る」
「楽しませる」
その強烈なモチベーションがあってこそ、
こうした映画は独特の力を持ち合わせる。
60年経とうとその訴求力は変わらない。
今も輝き続ける徒花だからこその美しさ。


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「サンクスギビング」 [映画]



「感謝祭(=サンクスギビング)」発祥の地とされるアメリカ・マサチューセッツの田舎町。感謝祭とは、家族や愛する人々と共に日々の収穫や恩恵に感謝し祝福する、一年でもっとも盛大な祝祭。ハッピーなお祭りムードを楽しんでいた人々だったが、突如として現れた清教徒<ピルグリム・ファーザーズ>の指導者ジョン・カーヴァーのお面に身を隠した連続殺人鬼によって、町は恐怖のどん底へと突き落される。残虐なやり口で殺人鬼の犠牲になった人々は何者かによって謎のインスタグラムの投稿にタグ付けされていた。感謝祭のおしゃれな食卓が映る投稿には、意味深に配された住民たちの名札が! なぜ彼らは狙われるのか──。饗宴が狂宴と化し、一夜が永遠のトラウマとなる史上最悪の感謝祭<サンクスギビング>が始まる!

https://youtu.be/x8bWLrmk3kE?si=2R5C8x7QgtT_teyR

年齢制限があるためリンクのみだけど、
「デスプルーフ・イン・グラインドハウス」に登場した予告編。
これが何と何と実現する。
あの予告編を作ったイーライ・ロスによって。
タランティーノにも好かれて、
「イングロリアス・バスターズ」にも出演していて、
かなり印象が強い人。
この年末に何をと思われるだろうが、
なにせタランティーノとロドリゲスには勝てない。
逆にこれこ2023年のシアター納めw。

感謝祭のセールを目当てに客が集まったホームセンター。
物欲と興奮状態から暴徒と化した客によって、
とんでもないカタストロフの現場と化す。
そこで罪もない人々が巻き込まれて死んだ。
それから1年。
ホームセンターの経営者はそんなことにもめげず、
また今年も感謝祭のセールを開くという。
実は前年も計算高い後妻の言うなりにセールをして、
予想外の客数に対応しきれなかったのに。
そして今年もまたその妻の言いなりなるのだ。
しかしそれこそがさらなる悲劇の始まりとなる。

単純に面白かった。
殺す人間と殺さない人間、
その境はどこにあるのか。
その殺し方には意味があるのか。
ええ、あるんですよ。
何といっても2007年に予告編は作られているんですからw。
逆に言えばその縛りを活かして、
新たなる物語を足す訳なので、
それはそれで大変だっただろうなと。
最初はよくありがちなティーンのおいたから始まる、
ホラーものかと思ったけれど、
確かにおいたはしているけれどそれだけじゃない。
そしてちゃんと考えるティーンでもある人は生き残る。
要するにバカは死ぬんだよねw。
ホラー映画が好きと断言はしないけれど、
面白いホラー映画があることも事実で、
私はこの手の「あらまぁ」と言う犯人なのが好き。
ちょいちょい「もしかして」というのもあるけれど、
「いや、さすがにその動機はわからんわ」って言うのが好き。
そしてビッチ中のビッチ、
お金大好きな後妻がどんな仕打ちに遭うのか、
これは観てのお楽しみ。

で、冒頭私好みの美形のビッチが出てきて、
(役柄はビッチと言えばビッチだけどそうは見えない)
「あれ?誰だっけ」と思ったらジーナ・ガーション。
この人「バウンド」での印象が強烈で、
ここからどうナウかと楽しみにしていたら、
案外B級女優に落ち着いてしまったらしい。

まぁこの映画の相場、
大体が人間として最悪の人間、
そして後先考えない(バカ)若者、
これが引き金になるのは間違いなし。
ただし2007年にはなかったスマホやSNS、
これを駆使している点がなかなか面白い。
大体こういう映画は深く考えず、
怖いことを喜んで、
ビクビクさせられることを楽しめばそれで良し。

個人的には悪くない年の暮れでございました。



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「Saltburn」 [Amazon Prime Video]



アカデミー賞受賞監督エメラルド・フェネルが送る、特権と欲望を描いた美しくも毒のある物語。オックスフォード大学に入学したオリヴァー・クイック(バリー・キオガン)は大学生活になじめないでいた。そんな彼が、貴族階級の魅力的な学生フィリックス・キャットン(ジェイコブ・エローディ)の世界に引き込まれていく。そしてフィリックスに招かれ、彼の風変わりな家族が住む大邸宅ソルトバーンで生涯忘れることのできない夏が始まった。

しれっとエメラルド・フェネルの新作が、
いきなりAmazon Prime Videoで配信開始。
それを知ったのは年末のアトロク。
いや、マジで宇多丸さんに言われなきゃ知らなかった。
あの「プロミシング・ヤング・ウーマン」の監督、脚本ですぜ。
そんな名手がこんな地味に配信されるなんて、
やっぱり配信業者も手に余る本数なんだな。

開始早々見事に英国の豪華な雰囲気。
写るもの全てが豪奢。
そしてクレジットの字体まで含めて雅やか。
そして次に映し出されるのは、
バリー・キオガン演じる奨学生オリヴァー。
オックスフォードで学ぶことになった彼は、
両親ともアルコールと依存症であると言う。
そして彼の目をとらえた魅力的な学生フィリックス。
富裕層の生まれである彼は、
誰からも愛されて従兄弟も交えた取り巻きに囲まれている。
友人がいなかったオリヴァーは、
同じく友人がいないという数学の天才を名乗る学生と知り合うが、
自転車のタイヤがパンクしたフィリックスと出会い、
自分の自転車を貸したことで仲良くなっていく。

イギリスの大学の寄宿舎と言えば、
もう同性愛がつきものだし、
当然そのように愛の物語として進行すると思いきや、
これがとんでもない展開を見せ始め、
当初おどおどした純朴な青年だったはずのオリヴァーが、
フィリックスに夏休みを実家のソルトバーンで過ごすことに誘われ、
一緒にそこでフィリックスの両親や姉、
従兄弟や友達たちと過ごすうちに様子が変わってくるのだ。

ここから先はネタバレなので書けない。
ネタバレサイトがあったとしても、
もしもこれから観るのであれば、
決してネタバレを読まないまま観ることを絶対にオススメする。

とにかくもう、
最高で最低のラストなのである。
これはもう「プロミシング・ヤング・ウーマン」と同じ感想だが、
そうとしか言いようがないのだ。
「イヤミス」はあるけれど、
これは紛うことなき「イヤなスリラー」なのだ。
特に牙を剥いてからの展開が、
ゾクゾクしすぎて興奮してしまう(変態です)。
こんなスゴイ映画を配信だけで終わらせるなんて酷い。
あんなに素晴らしい絵作りをスクリーンに映さないなんて、
これこそ映画に対する冒涜でしかない。
映画館という空間で、
この物語を味わえないのは残酷すぎる。
でも家で観ても最高だし最低だし、
エメラルド・フェネルの才能の凄さは充分味わえる。

これがプライム会員なら無料なのだから、
Amazon Prime Videoのコスパはめちゃくちゃ良い。
もしこれを読んでいる貴方がプライム会員でないなら、
今なら月500円でプライム会員になれるのだから、
いや無料体験できるノダからこれを観ない手はない。

映画に順位付けなどするものではないけれど、
今年一番良かった映画はなんだろうと思っていたところだった。
しかしそこにこの映画。
ハッキリ言うが最高過ぎて今年No.1だ。
思えば去年も年間No.1を見たのは12月30日だった。

この2時間11分、
人生の中でもしかしたら最高の時間かもしれない。
バリー・キオガンの最高の演技が観られるし、
エメラルド・フェネルの最高で最低の意地悪さと、
冷静に人を観察して見つめる目が楽しめる。
とんでもない監督だぞ。



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「65/シックスティ・ファイブ」 [Amazon Prime Video]



<ストーリー>
宇宙船の墜落事故。
生き残ったのは二人だけ。
生存率ゼロの隕石衝突まで、あとわずか――。
ミルズ(アダム・ドライバー)は、宇宙船に乗り込み、宇宙を探査する長いミッションに出ていた。航行中、突如、小惑星帯と衝突して宇宙船は墜落。乗組員の生存はゼロ。船体はバラバラとなり航行不能。どこかに切り離されたであろう脱出船を探すため、未知の惑星を捜索するミルズは、一人の少女・コアが生存しているのを発見する。
二人が不時着したのは、6500万年前の地球――。
そして・・・恐竜を絶滅させたという巨大隕石が、あとわずかで地球に衝突しようとしていた――。

アダム・ドライバーだし、
話も面白そうだからスクリーンで観ようか、
他にも観たいものがあって迷ったとき、
ヨシキさんが「さすがのアダム・ドライバーでもつらい」と酷評。
まぁ無料になるまで待とうと思っていたら。

なるほど。
つまらん。

多分アダム・ドライバーの演技と存在感、
そこに家族や少女の物語を加えれば、
それで観客が食いつくと思ったんだろうな。
今や「ジュラシック・ワールド」だって羽が生えた恐竜の時代。
バリバリは虫類系の恐竜を登場させて、
リアリティが全くないじゃないか。
そしてご都合主義にラッキーが重なる。
先が読めすぎてもうつまらなさすぎる。

こりゃあかんわ。
今時こんな映画にアダム・ドライバーを使って、
金をかける意味はどこにもない。

無料でも意味のない映画ってあるんだな。


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「クナシリ」 [Amazon Prime Video]




クナシリ(字幕版)

クナシリ(字幕版)

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2022/04/27
  • メディア: Prime Video


戦前には四島全体で約17000人いた日本人も、戦後の1947年から48年にかけて強制退去が行われ現在は誰もいない。寺の石垣、欠けた茶碗、戦車や砲台など、国後島の至るところに今なお日本や第二次世界大戦の傷跡が残っている。両国の交流は断たれているため、日本人墓地も荒れ果てたまま土に埋もれ、そこに人の姿はない。映画では国後島の厳しい現状やロシア人住民らの生活の様子が収められ、政治に翻弄されてきた島民の暮らしや本音、日本人が残したものを追っていく。

思えば小学生時代、
「北方領土は日本固有の領土」と教わった。
つまり授業で「ソ連による不法占拠」」だと教えていたわけだ。
だから国境線は四島を含んだ場所にあるとされていた。
もともとバカだし、
何も考えていない子どもだったから、
その時はそれを信じていた。
何しろ当時は冷戦の真っ只中、
ソ連は今の北朝鮮同様に「悪の枢軸」のように言われていた。

60年生きてきて、
日本が日清戦争から始まって、
日露戦争では這々の体で勝利して、
第二次世界大戦に突入するまで、
その後の狂気に満ちた軍の在り方、
一方ヨーロッパ戦線や、
或いはロシアという国の歴史を知ると、
あの当時教えられたことの薄っぺらさと、
明らかな刷り込みにゾッとする。

クナシリはロシアにとっては、
極東の最果ての島。
移住させられた住民たちの存在も、
忘れられる存在。
ロシア本土の暮らしとはほど遠い。

オープニングの映像に蕗の花が映る。
フキノトウから花になった状態。
日本人が持ち込んだものだろうか?
おそらくロシア人には見向きもされない。
夏にはあのふき特有の葉っぱが繁っていた。
ギョウジャニンニクは家の中にあった。
あれはもしかしたら食べるのだろうか?
野山にはクマザサが生えている。
そこが日本だと言われてもわからない。

住民はわかっている。
「漁業権のために」島が欲しいのだ。
住民は実効的支配のために住まわされている。
張り切っているのは、
クナシリに軍の展示博物館を作るという軍人だけ。
強制退去された日本人は帰れないまま。

どちらの国の人間も幸せではない。
この島はどういう位置づけなのか。
一体誰に必要とされているのか。
そこにあるのは、
軍事的な意味合いと漁業権だけだ。

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「コントラクト・キラー」 [Amazon Prime Video]


コントラクト・キラー (字幕版)

コントラクト・キラー (字幕版)

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2023/11/01
  • メディア: Prime Video


アキ・カウリスマキ監督がジャン=ピエール・レオーを主演に迎えたブラックユーモアコメディ。職場を解雇された男は人生を悲観し、プロの殺し屋に自分を殺すよう依頼する。ロンドン。水道局で長年働いてきた、家族も恋人もいないフランス人男性アンリは突然、勤務先から解雇されて思わず自殺を図るが、失敗に終わる。ならばと新聞で見つけたプロの殺し屋のボスに自分を殺すよう依頼する。しかしそんなアンリは、町で花を売って生計を立てている美少女マーガレットに一目惚れしてしまう。そこで気が変わって殺し屋への依頼をキャンセルするが時すでに遅く、マーガレットとともに殺し屋から逃げるが……。

他の監督や制作者が作ったら、
とんでもないブラック・ユーモアの、
ドタバタコメディにしそうな話。
それがカウリスマキにかかると、
こんなにもアイロニーに満ち満ちた、
ペーソスを感じさせる映画になるとは。

カウリスマキを観ていていつも思うのは、
表情に乏しい台詞と顔は、
意外にも雄弁だと言うこと。
ヘタに演技で抑揚や、
感情表現をされるよりも、
観る側の想像力を刺激するし、
解釈の余地を広げてくれる。
それは優しくも出来るし、
残酷にもできるし、
またあるときは非情にもなれる。
演じると言うこと、
演出をすると言うことは、
ある意味製作者の意図を明確にする分だけ、
解釈の余地を残さない場合もある。

絶望した男が死にきれない滑稽さも、
無表情であるが故に、
滑稽でもあり哀しくもある。
人生に本当に絶望したら、
案外大声で泣いたり叫んだりできないものかもしれない。
それ以上に絶望に絶望を重ねれば、
より一層人間は感情を失い心が死ぬのかもしれない。

そんな男の悲喜劇を、
絶妙なタイミングで切り取っていくカウリスマキ。
やっぱり好きだな。

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「マエストロ その音楽と愛と」 [映画]



『ウエスト・サイド物語』の音楽を手がけるなど指揮者・作曲家として世界的に知られたレナード・バーンスタインとフェリシア・モンテアレグレ・コーン・バーンスタインがともに歩いた生涯を振り返る、大胆かつ情熱的な類まれなる愛の物語。

「あれ?Netflixじゃないの?」
いや、今地味に映画館で公開されていますから。
どうせだったら音楽映画は劇場の音響で観たい。
まぁうちの場合、
Amazon echoからの音声になるから、
それなりに家で観ても悪くはないんだけど。

しかしなぁ。
監督・主演・プロデューサーがブラッドリー・クーパー。
そのまたおまけにプロデューサーにスコセッシとスピルバーグが名を連ねる。
おまけにキャリー・マリガンまで出演して、
とても重要な妻役を演じるというのに、
なんでこんなにしれっと配信されて、
しれっと地味に公開されちゃうんだろう。
そりゃガキの映画でかき入れ時だし、
興収に大きく関わるそっちに注力するのはわかるけど、
配信会社ももうちょっと宣伝しろって。

最初のバーンスタインのインタビューシーン。
もうここからブラッドリー・クーパーは完全にバーンスタイン。
この人は役所広司と同じで、
特定の色を持たない変幻自在の存在感を持つ。
ものすごくハンサムなんだけど、
逆にハンサムすぎてあくがないから、
そういう存在になれるのかもしれない。
割合どんな凶悪な役もバカな役も、
すんなり染まってしまうのが見事。
そしてピアノは弾くし、
指揮も見事にやってのけるし、
さすがに何年もかけて役作りをしただけある。
完全にそこにいるのはバーンスタイン。
そして妻のキャリー・マリガン。
これがまた素晴らしい。
役者として自分の存在感を誇示しながら、
バーンスタインを愛して、
彼がバイセクシャルであることも知っていて、
苦しみながらも妻としてパートナーとして、
最大の彼の理解者として愛し続ける。
そしてガンとわかってから死ぬまで、
その演技はとても微妙な心の動きや、
調子の悪さの表現まで細やかで見事。
あれほどエネルギッシュだった女性が、
絶望に苛まれて塞いでいくのが哀しい。
「SHE SAID」でも産後うつに苦しむ様子を好演。
今年もまたキャリー・マリガンは良い演技を見せてくれた。

陽気で魅力があって、
才能も×銀だったバーンスタイン。
彼は本当に妻を愛していたし、
子供たちも愛していたし、
その一方で男性たちも愛していた。
それはどれも彼にとっては自然なことで、
彼の自由な精神と才能を制限するものではなかった。
もはや男性同士のキスシーンなど、
私は余りにも普通すぎて何も感じないし、
思うのは「ああ。そういうことね。」だけ。
バーンスタインの様な精神の持ち主は、
決して何にも縛られないし、
彼が求めるのは自らの欲求である才能の放出と、
才能があるが故の自己顕示欲だ。

「愛の映画」として考えるとき、
一筋縄ではいかないし、
決して簡単な理解しやすい話ではない。
しかしバーンスタインは生涯妻を愛し抜いた。
彼女と苦しみも分かち合った。
だけど芸術家として分かち合えないものも合った。
その精神性はやはり男と女だけでは成立しないものだった。

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「伝説のカルト映画館 大井武蔵野館の6392日」 [電子書籍]


伝説のカルト映画館 大井武蔵野館の6392日 (立東舎)

伝説のカルト映画館 大井武蔵野館の6392日 (立東舎)

  • 作者: 太田 和彦
  • 出版社/メーカー: リットーミュージック
  • 発売日: 2023/11/20
  • メディア: Kindle版


――「名画座中の名画座でした」山田宏一(映画評論家) 1981年から99年、東京・大井町に存在した名画座、大井武蔵野館。「見逃したら二度と観られない」と思わせるディープな作品ラインナップは映画通を唸らせ、石井輝男をはじめ多くの監督の再評価に貢献し、その発掘精神は映画メディアや今日の名画座にまで影響を与えています。本書はそんな同館の魅力を再検証するべく、元支配人や映写技師、関係者のインタビューや対談・鼎談、常連客アンケートなどを収録。さらに資料として、「全上映作品リスト」や、さまざまな媒体に掲載された同館関連の記事を収める他、太田和彦氏が同館を愛するあまり、個人的に発刊していた幻の新聞「大井武蔵野館ファンクラブ会報」の、全10号&30年目の最新号を掲載します。大井武蔵野館とはなんだったのか......。通った人も、間に合わなかった人も楽しめるバラエティブックです。

カルト映画が好きだ。
それは私の年齢では劇場では間に合わず、
TVでかなりむごい状態にカットされた状態で観た。 
それが多感な時期だったりするものだから、
親は決していい顔はしない。
私の場合中学時代から20歳の夏まで、
母親の介護と学業と言う生活の中で、
TVで観られる映画だけが楽しみだった。
正確に言えばアニメと映画だけど。



東京12チャンネルで土曜夜に放送されていた、
日本映画名作劇場」のインパクトはすごかった。
およそゴールデンの解説には出ないであろう品田雄吉氏に加え、
ATGだの大映だのかなりエロイ映画も多く、
当時高校生だった私にはそれすらもカルトだった。

そんなわけで、
母親が亡くなって学業に復帰して以降は、
時間を作っては名画座に通っていた。
学校が渋谷に近い半蔵門線だったので、
三軒茶屋東映、二子玉川とうきゅうにはよく通った。
当時は毎週「ぴあ」を購入して、
行かれる範囲と財布の範囲で観たい作品を探した。
大体名画座になると3本800円で学生は見られた。
3本全部見なくても、
自分が見たい作品だけを選んでも充分だった。
まだレンタルビデオが始まったばかりの頃で、
借りるのもかなりいい価格だった覚えがある。

確かな記憶ではないが、
大井武蔵野館も何度かは行ったと思う。
ただ定期で行かれる範囲ではなかったので、
それほど熱心ではなかった。

だからこの本を読んで悔しいと思った。
あと少し年齢が上であったなら、
おそらくはもっと通えていただろうし、
何とも巡り合わせが良くなかったようだ。
本誌でも語られる横浜の「シネマジャック&ベティ」も頑張っているが、
つい先日「閉館待ったなし!」という衝撃的なクラウドファンディングが行われた。
2スクリーンの昔ながらの劇場ではあるが、
ミニシアターとして新作の興味深いプログラムに余念がなく、
「いざとなったら阪東橋」と言うくらいに最後の牙城だ。
ロケーションもちょっと怪しくて素晴らしい。

そもそも名画座というものは、
シネコンの波ではなく、
消防法の規制によって消え去ったと思っている。
昔の映画館を知る人ならば、
座席指定などなく、
コンクリートの床に場末の喫茶店やバーでもあるような、
赤い別珍生地に包まれた硬いシート、
人気作なら立ち見も当たり前、
平日の空いた館内ではタバコを吸う強者も。
一方明らかにさぼっているであろう寝ているサラリーマン。
快適とは言えないまでも、
冷暖房完備で座席と空間を提供してくれる名画座は、
手ごろな休憩場所でもあったのだ。

今やシネコンで2000円払って休憩する人はいるまい。

巻末の上映ラインナップを見て、
自分が如何にカルト映画好きかを思い知らされたし、
見ていない作品は何とか見るすべを探している。
現在配信も大手だけではなく、
映画製作会社、配給会社が提供する配信チャンネルもあって、
古いカルト映画はそこでなければ観られなかったりする。
これもまた少し遅れた私が悪い。
何とも相性が良くないのだが、
それだけにそそられる気持ちが強くなる。
正直言って就職してからは、
なかなか時間が取れなくて、
本当に見たい新作をロードショー館で観るのが精いっぱいだったし。

それにしても巻末の全上映作品のリストは圧巻。 
思わず自分が行ったであろう記憶が確かな時期、
それを探ってみたら、
行ったのは大井ロマンの方だった。
確かに観たのは「ターミネーター」だったので、
洋画系の方だったのだろう。
面白いのは最初の頃は、
ヒット映画を2~3本かけるプログラムだったのが、
次第にレアでコアなカルト映画に流れていく点だ。
それは対談、鼎談、座談会などにもある通り、
月日の流れで映画業界が変わったり、
様々なフィルムに対応する映画館が少なくなったり、
何より客が集まるプログラムを選んで、
独自色を出していった結果だろう。
しかし何とも新東宝の題名と言うやつは、
余りにもインパクトが強くて困ったものだ。
あと大映も増村作品は原題通りとは言え、
妙にそそられる雰囲気が漂ってくる。
そしてやがて時間がたつにつれ、
そうしたフィルムも劣化してくるし、
実際送られてくるフィルムがひどいものだったという証言もある通り、
かかる映画もまた少しずつ新しいものに変化する。

今こんなこだわりのあるプログラムをかけるのは、
なかなか大変なことだろう。
池袋文芸坐はいつも頑張っているなぁと思うが、
残念ながらちょっと遠くて通うのが大変。
大好きなシネコヤはこういうプログラムではないのだが、
それはそれで好きな映画が多いので助かる。
しかしこんなカルト映画狂の巣窟になるような映画館は、
もうなかなか商売として成立しないだろうし、
なにより最近のシネコンなどの傾向を見ていると、
それで商売は成り立たないだろうと思う。

バブル期前夜からバブルがはじけるまで。
まさしく20世紀の終わりに咲いた徒花。
他のおしゃれなミニシアターとは違う存在。
こんな映画館がそばにあったなら、
そりゃ毎日でも通いたくなるのが映画好きのバカさ加減だ。
それが良いのだ。

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