「モリコーネ 映画が恋した音楽家」

『ニュー・シネマ・パラダイス』のジュゼッペ・トルナトーレ監督が
マエストロの葛藤と栄光に迫るドキュメンタリー
芸術の深淵を見た彼が、カメラの前で最後に語ったこととは？

2020年7月、世界は類稀なる存在を失った。
エンニオ・モリコーネ、享年91歳。500作品以上の映画とTVの音楽を手掛た。アカデミー賞には6度ノミネートされ『ヘイトフル・エイト』で受賞、全功績を称える名誉賞にも輝いた。
　そんな伝説のマエストロに、弟子であり友でもあるジュゼッペ・トルナトーレ監督が密着、結果的に生前の姿を捉える最後の作品となってしまったドキュメンタリー映画を完成させた。
モリコーネ自らが自身の半生を回想、かつては映画音楽の芸術的地位が低かったため、幾度もやめようとしたという衝撃の事実を告白する。そして、いかにして誇りを手にしたかが、数多の傑作の名場面とワールドコンサートツアーの演奏と共に紐解かれていく。さらに、70人以上の著名人のインタビューによって、モリコーネの仕事術の秘密が明かされる。
モリコーネのメロディを聴くだけで、あの日、あの映画に胸を高鳴らせ涙した瞬間が蘇る。同じ時代を生きた私たちの人生を豊かに彩ってくれたマエストロに感謝を捧げる、愛と幸福に満ちた音楽ドキュメンタリー。

エンニオ・モリコーネの偉業がどれほどのものか、
映画ファンなら誰でも知っているだろう。
或いはその名前を知らなくても、
旋律を耳にすれば必ず聞き覚えがあるはずだ。
そのモリコーネの歴史を辿りながら、
本人の弁を聞くと言う贅沢なドキュメンタリー。
おまけに監督はあのジュゼッペ・ペルナトーレだ。

157分があっと言う間だった。
気がついたらエンドロールだった。
その間流れる映画音楽と懐かしい映画の映像。
嬉々として彼の素晴らしさを語る著名人たち。
おまけに一つ一つの映画音楽を、
いくら自分が作曲したとは言え、
きちんと振り返って口ずさんで語る。
恐るべき記憶力と熱意だ。
それもちゃんと細部まで記憶していて、
監督とのやりとりや脚本を読んだときの感想まで、
昨日のことのように語りつくす。
彼の映画音楽にどれほどの人が影響されているか、
タランティーノやイーストウッドが語るのはともかく、
あのボスが受けた衝撃を語る表情がたまらない。
もちろん映画音楽をやることは、
当初は音楽界では認められるような仕事ではなく、
モリコーネ自身も止めよう止めようとしていた。
しかし既存の手法に囚われない彼は、
斬新なやり方でその実力と才能を遺憾なく発揮。
セルジオ・レオーネとのコンビで、
彼は着々とキャリアを積んでいき、
やがてイタリアだけではなく世界中からオファーを受ける。
それからは誰もが知っている名画と名曲続き。

もはや人間業とは思えない。
そしてどれほど素晴らしい作曲家か、
157分感動しっぱなしで幸せで、
とにかく幸せいっぱいでエンドロールを眺めていた。

公開劇場が多いわけではないので、
なかなか難しいかも知れないけれど、
映画ファンならこの157分は絶対に観ておくべきだ。

わが家にあるメディア、
モリコーネ比率が異常に高いのだが、
それだけ彼が名画を担当しているのだ。
彼の脚本から映画を想像して音楽を作り上げる力、
これだけは比類なき天才のものだ。