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「スクリーンが待っている」 [電子書籍]


スクリーンが待っている

スクリーンが待っている

  • 作者: 西川美和
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2021/01/15
  • メディア: Kindle版


ああ、世界は奇跡に満ちていたんだな。
「ニヤニヤ、クスクス。これ、立派な映画作りの教則本です」役所広司
「ため息がでるほど、画には映らない想いがつまってる」仲野太賀
 一貫してオリジナル作品に拘ってきた著者が、初めて小説をもとにした作品のメガホンを取った。原案は、佐木隆三氏の『身分帳』。13年という最後の刑期を終えた元殺人犯の人生を描き、舞台を昭和から現代に移して脚本化。『身分帳』との出合い、脚本執筆のために潜り込んだ婚活パーティ、一か八かの撮影現場、コロナによる編集作業の休止など、映画の制作過程の出来事が時にユーモラスに、時にアイロニカルに描かれる。
 『すばらしき世界』は、2021年2月11日に公開。主演の役所広司さんはじめ、仲野太賀さん、長澤まさみさんなど豪華キャスト。2020年9月に行われたトロント国際映画祭への正式出品など既に注目を集めている。

西川監督が惚れこんで、
初めて原作のある作品取り組んだ「すばらしき世界」。
その原作である「身分帳」との出会いから、
完成に至るまでのあれやこれや。
もしかしたら疑問だった「あの点」のヒントがあるかも。
そんな気持ちで読み始めてみたが、
けっきょく答えは見つからなかった。
もしかしたら編集でカットされただけなのかもしれないが・・・。

「身分帳」を読んでみて驚くのが、
時代設定は変えてあっても、
驚くほど原作に忠実に作られていること。
特に主人公の生きてきた人生や性格。
これがしっかりとしているから、
多少の変更点は気にならないほどに必然に感じられる。
そしてそこに至るまでの裏話は、
映画制作の現場話の面白さや西川監督の感性が感じられ、
「ああ、あそこはこうだったのか」
映画の場面を思い浮かべながらすいすいと読めてしまう。

ただそこに至るまでのスタッフとのやり取りや、
誰を使っていくのかなどの経緯は現実。
非常に心がいたくなるような言葉やシーンもある。
映画の製作現場の裏側は映画以上にドラマティック。
「事実は小説より奇なり」とはいうものの、
現実のほうがドラマより映画より残酷だったりもするのだ。

西川監督が「これこそふさわしい」と役所さんに持って行った話だけに、
役所さんへの愛情があふれていて、
その描写の中の役所さんの表情や声などを想像すると面白い。
そして原作では逃げてしまう自称コピーライターを、
どんなふうに焼き直して仲野太賀という役者に行きついたのか、
その過程もまた納得と同時にうならされる。
あの映画の中の二人の笑顔を思い浮かべると、
西川監督の配役と役者同士の化学反応の妙が味わえるし、
全てにおいて「ベスト」ではなくても、
「最高」だったのだと感じられてくる。

映画作りが大変なことは素人でもわかる。
しかし現場の声、
それも監督が作品を生み出して育てて巣立つまで、
それを記した文章は慈愛と苦しみと楽しさに満ち満ちている。

こんな文章を読んで楽しめるのは、
映画ファンとして恐悦至極、欣喜雀躍、感謝感激である。

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