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「必死のパッチ」 [本]


必死のパッチ (幻冬舎文庫)

必死のパッチ (幻冬舎文庫)

  • 作者: 桂 雀々
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2010/02
  • メディア: 文庫


内容(「BOOK」データベースより)
十二歳で親に捨てられた孤独と貧乏と寂しさは全部“笑い”で乗り越えた!人気落語家の壮絶自叙伝。

小学6年生で母親が家を出て、
中学1年生で父親に心中の道連れにされそうになったあげく、
借金取りがやってくる家に一人取り残される。
父親は借金取りから逃げたのだ。
わずか12歳の息子をその家に残して。
そしてガスは止められる、
電気もやがて止まり、
それでも近所の人たちに助けられながら、
何とか生きていく12歳の少年。
土地柄も年代もあるのだろうが、
今の時代ならどうなっていることやら。
そしてその孤独から逃れるために、
貧乏(子供の一人暮らしにその言葉はふさわしいのか?)を忘れたくて、
少年は「おもろいヤツ」になっていく。
そして巡り合わせでTVの素人番組に出るようになり、
やがてそこでもらった商品から落語に出会う。

壮絶だし、
12歳の少年が借金取りと対峙する場面は、
実話でなければ書けない迫力がある。
(少年の下心も含めて)
とにかくものすごい。
貧乏時代を書き綴った本は数々あれど、
ここまで身勝手な親と必死な子供は見たことがない。
彼にとって「おもろいヤツ」になることは、
自分の身を守る処世術だったのだろうし、
それが思わぬところから花開いて、
意外な小遣い稼ぎもできるようなる。
それでも、だ。
中学生が一人で生活保護で暮らすとは、
如何に時代が違うとは言えスゴイことだ。
こうなったらぐれる閑なんかあったモンじゃない。

「必死のパッチ」とは、
関西では必死の上を行く最上級の必死なことだそうだ。
少年は親から捨てられて、
文字通り「生きる」ために必死になった。
そしておそらく彼にとってもっともつらかったのは、
「孤独」だったと思うのだ。
学校に行けば友達が、
昼間のうちは近所の人が、
それぞれになんやかやと接点もあって世話をしてくれたりもする。
それでもそれぞれが家族団らんの時間になったとき、
あるときは電気を止められてろうそくだけの部屋で、
気が狂いそうなほどに寂しかったことだろう。
だから「必死のパッチ」で頑張った。
何に頑張ったかと言えば、
「生きる」ために「正気を保つ」ために、
「笑い」という世界に自分を向けていったのだ。
それは他人から見れば奇妙で滑稽だったに違いない。
或いは珍奇で怪しい様子に見えたかも知れない。
おそらくそれは当人にしか理解できない闇の深さだっただろう。
それでも闇に飲み込まれなかったのは、
友達や近所の大人たちの好意と、
自らの意志の力に他ならない。

「11本の色鉛筆」のエピソードが、
父親の浅ましさを物語っている。
大凡普通の父親なら考えられないことだから。

これを読んで何か教訓を得るとは思わないが、
人の情けや人の強さと脆さを実話として知ることができる。
そして人間は「必死のパッチ」となれば、
どうにでも生きることができるものなのだ。


「生きる価値」なんてもので悩めるのは、
まだまだ余裕がある証拠、
贅沢でバカな自分に気づかされた。
(だけど病気だからすぐに発想の転換ができない)
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