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「北山修 最後の授業 テレビのための精神分析入門」 [TV]

まさかこの授業を映像で観られるとは思っていなかったので、
とてもうれしい。

「映像があることでテレビは人々の想像力を奪うことがある。」
「精神科医は人々の心の裏側を読み取り想像して言語化していく、
 パーソナルコミュニケーションを取り扱う仕事である。」

「日常化したテレビは、情報をお茶の間という表に送り出すものです。」
「見やすいこと、見応えのあるもの、見好いものが材料になりやすいのです。
 当然、裏にあるはずの見にくいもの(醜いもの)については見せない。」
「何かしらは見ているので、そういうウラを想像しない心の在り方を常態化させやすい→症状?」

私は精神科医でも心理療法士でもないので、
専ら患者としてこの話をとらえるしかない。
けれどこの冒頭の指摘で、
自分を自分以上のものとして頑張ってしまう自分という存在を考えた。
これは「私」と言うことではなく、
一般的言う人に対する「自分」である。

「新型うつ病」も含めて、
おそらくうつ病の人は自分を自分以上に見せたいとか、
そうは意識していなくても自然と自分の力以上のものを発揮しようとしてしまうとか、
「他人から見た自分」「他人からの自分の評価」を考えてしまう、
そういうことを無意識にしているのだと思う。
これは北山氏が指摘する、
「見やすいもの、見応えのあるもの、見好いもの」=「頑張る自分、能力を発揮する自分」
「ウラを想像しない心の在り方の常態化」=「自分の疲労が知覚できない、周囲は当事者の苦しみを想像できない。」
そうしたことにならないだろうか。
従来型のうつ病患者は、
頑張りすぎて心身の疲労が限界を迎え、
薬を飲んで寝ていること以外何もできなくなる。
だから「仕事の時以外は元気」な「新型うつ病」とは違うとされたが、
「新型」に相当する人たちは、
賢明にも「限界」を迎える前に自分のウラに気づいているのではないか。
「この会社で頑張る自分=表の自分」に対する違和感を覚え、
会社に行くことを心身が拒否してしまう。
だから会社を休んでしまえば趣味も旅行も楽しめる。
ある意味「新型」に相当する人たちは、
「見やすい、見応えのある、見好い自分」に無意識に気づいていて、
「見にくい(醜い)自分」をさらけ出す前に逃げ出せる。
それはある意味厄介かも知れないが、
重症化する前に自らのウラに気づけるのだとしたら、
それもまた悪いことではない。
ただ一つ言えることは、
「見やすい、見応えのある、見好いもの」であることが常態化していて、
ウラの自分をさらけ出せないことも事実だと言うことだ。
実際私は主治医に本当のウラまでさらけ出すのに、
半年を要したと思う。
これが精神科領域の病気の難しさなのだろう。

番組を通じて自分の主治医の在り方を考えていた。
「クライアントの話を聴くこと、聞き出すことが精神科医の役割であって、
 そこに主観や自分を決して交えてはいけない。」
そのことを考えてみると、
私の主治医は確かにそういう存在である。
私から聞き出すことはあっても、
そこに個人的な主観は一切ない。
あるのは医学的な見地からの意見や経験のみ。
「心の臨床家が楽屋を見せない」
その言葉が身にしみた。
相手がどんな人間かわからないと言うことで、
人は心の裏側を見せるのを躊躇する。
おそらく精神科領域の治療を受ける患者であれば、
なおさら相手の医師の人となりがわかるまで、
自分のウラを見せようとはしないだろう。
公開された経歴から読み取れるだけの情報では、
おそらくそう簡単に自分が抱える苦しみをオープンにはできない。
それは至極当然のことだ。
でもパーソナルコミュニケーションを扱う領域だからこそ、
心の臨床家の楽屋を見てしまったら、
「この先生も恋人とうまく行っていないから今日は話すのはやめよう」とか、
「この先生は友達に何でもしゃべっているから信用できない」とか、
私たちは素顔をさらけ出すことができなくなるだろう。
「人の心を映す鏡になること」
自分でも気づかなかった自分のウラを映し出してくれること。
或いは映し出すための手助けをしてくれること。
そして実は母親と子供の間で交わされる交流を引き継いだ仕事であること。
なるほど、機能不全家庭で育った人間に精神疾患が多いわけがわかった気がした。

もっともっとこの授業の内容を知りたくなった。
そして偶然放送が終わった翌日に聴いていたラジオ、
「土曜ワイドラジオ東京」に北山氏が出演していて、
この講義の本が出版されていることを知った。

最後の授業――心をみる人たちへ

最後の授業――心をみる人たちへ

  • 作者: 北山 修
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2010/07/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


驚いたことにどこでも一時的品切れ状態だ。
氏の他の著作とは全く違う動きのようだ。
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これは教え子たちが欲しがっているからなのか、
それともTVの力なのかわからない。
TVの力だとしたら恐ろしい影響力だ。
けれどTVのプラス面ともとらえることができる。
想像力を奪うことがあるものかも知れないが、
これによって氏の著作が広く読まれるのであれば、
それはそれで喜ばしいことである。

私は自らが心を病んでいる身であり、
この年齢から臨床心理に関わる事などできないだろう。
けれど氏が言っていた、
「聞き上手が減った」という言葉を思いつつ、
たとえ専門家としての資格は持たなくても、
「聞き上手なおばさん」になれればと思う。

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